第二百七十三話
十一階層に降りて数戦を熟したが、三人は危なげなく突撃牛も倒していった。
「久川、頼む!」
「任せて・・・う、うわぁっ!」
冬馬伍長が躱した突撃牛に後ろでスタンバイしていた久川上等兵が振りかぶった戦鎚を突撃牛に叩き込んだ。
しかし体重が重い突撃牛の突進は凄まじく、突進の勢いを殺す事に成功はしたものの戦鎚も跳ね返されてしまった。
反動をそのまま受けた久川上等兵は何とか戦鎚を離さずに堪えたものの、たたらを踏み体勢が崩れ追い打ちが出来なくなってしまった。
「それなら私が・・・はあっ!」
突撃牛から無視されていた井上上等兵が脳震盪を起こし停止した突撃牛の首筋に槍を突き立てる。深々と刺さった槍は致命傷となり突撃牛は肉の塊へと変化した。
「玉藻様、レアです、レアドロップが出ました!」
「夕食はこれを調理して祝うとするかのぅ。料理の要望はあるかえ?」
三人から返ってきた答えは分厚いステーキが良いという物だった。女子とはいえ激しい運動を行う体育会系女子なので、ガッツリした肉を食べたいのだろう。
お肉を迷い家にしまうついでに遅めの昼食を摂る事にする。何か作ろうと思ったのだが、夕食の楽しみがあるので昼はレーションで良いと言われてしまった。レーションを消耗しないのも問題になるというので適当に消費する所存。
「折角食材も調味料も調理場もあるというにレーションというのも風情が無いのぅ。不味い訳では無いのじゃが」
「今回の探索は我々だけが戦闘する事になっていますが、次回は玉藻様にも戦っていただく事となります。疲労状態で調理するのは負担が大き過ぎますので」
調理は全て俺がやる事が前提の発言を放つ冬馬伍長。確認した訳では無いが、自己申告を信じるならば彼女らを台所に立たせない方が良さそうなのてそこはスルーしておこう。
「玉藻様、例えレーションでも凄く贅沢な食事ですよ。ダンジョン内で全く警戒せずに呑気に食事出来るなんてあり得ませんから」
「しかも、食後には美味しいフルーツが食べ放題!同僚が知ったら血の涙を流して羨ましがりますよ!」
井上上等兵と久川上等兵が身を乗り出して力説するが、その点は俺も否定しない。フルーツは置いておくとして、安全な場所で心身共に休めるのはかなりの贅沢だ。
「それに玉藻様の尻尾をモフれるという特典付き!これだけでどんな疲れも吹き飛びます!」
「いやいや、妾の尻尾はモフり放題になってはおらぬからな?」
井上上等兵に釘を刺すも、尻尾の魔力に取り憑かれた三人には暖簾に腕押し糠に釘。しっかりと尻尾をモフられてからダンジョン探索の続きにむかいました。
十二階層の火鷹には戦鎚は相性が悪い為、冬馬伍長と井上上等兵で迎撃を行った。十三階層のコボルドも冬馬伍長と井上上等兵が足止めし、久川上等兵が強力な一撃をお見舞いして難なく倒していった。
十四階層の跳び百足戦では久川上等兵が獅子奮迅の大活躍を見せた。外骨格が固い百足だが、戦鎚による打撃は効果が高かった。
頭部に上手くクリーンヒットが入った時など、それだけで跳び百足の動きが止まり二撃目で呆気なく魔石に変わってしまった。
「変わるじゃろうとは思うておったが、ここまで化けるとは思いもよらんかったのぅ」
新生冬馬パーティーによる快進撃はまだまだ続くのであった。




