第二十七話
今日は五階層で一度ルートを外れて妖狐の姿になった。この体は五感も上がるので奇襲ヘビが近寄ると奇襲される前に感知出来てしまう。
奇襲出来ない奇襲ヘビを燃やしつつ六階層へ向かう。物理で殴り合うと時間がかかる熊さんも、狐火でこんがりと焼いてしまえば手間はかからない。
そして到着した七階層。ここでリタイアする探索者は少なくない。ゴブリンという人型のモンスターを倒す事に抵抗があり進めなくなるのだ。
その上相手も武器を使ってくる事への恐怖や複数に襲われる事への恐怖もあり、五階層までしか潜らない探索者も少なからず存在する。六階層の熊さんは倒す手間が掛かるので敬遠されやすい。
「グギャ?グギギャッ!」
「ギャギャ、グギャギャッ!」
三匹のゴブリンが俺を発見し、目の色を変えて突進してきた。例に漏れずこの世界のゴブリンも人間の女性を苗床とする為、女性探索者に毛嫌いされる存在だ。
この七階層は迷宮型なので通路はそう広くない。小柄なゴブリンとはいえ三匹が横並びになれば詰まってしまうのだが、狐耳の巫女という俺を得ようと我先に突進し詰まっている。
誰かが一人先を譲れば動けるのだが、奴等にそんな社会性は無い。欲望のままに俺という女体を得る事だけを考えている。
邪な視線に慣れているとはいえ、それは気持ちの良い物ではない。狐火を着弾させると三匹揃って火達磨になり、そのまま魔石を残して消えていった。
「ゴブリンも狐火で瞬殺と。接近戦もやった方が良いのだろうけど・・・」
大概の小説で語られる通り、この世界のゴブリンもとんでもなく臭い。レアドロップに腰巻きが出るのだが、持ち帰る事を禁じられる程に臭いのだ。
更に潜るとコボルドが出てくるので、人型モンスターとの接近戦はそいつで慣れた方が良いだろう。汚物は焼却という前世の名言に従い焼きまくる。
近接戦の訓練を省いたので時間がかなり余る。攻略はしないが八階層の敵と少し戦ってから帰る事にした。八階層の敵はかなり恐ろしい。倒すには心の強さが必要な上スキルまで使ってくる強敵だ。
洞窟型の階層を慎重に進む。程なくして接敵したが、実際に出会って手強さを再認識した。この階層で挫ける探索者も少なくないと言われているのも頷ける。
「ウミャ、ニャ~ン」
現れたのは一匹の子猫だった。しかしその足取りはしっかりしていて、成猫と同じ程度の速さで走ってくる。真っ白な体毛はモコモコで、つぶらな瞳は俺を見据えている。
「くっ、悲しいけどこれ、戦いなのよね」
心を鬼にして狐火をぶつけると、子猫は呆気なく魔石へと変った。ここはダンジョンだ。幾ら可愛くても出現するのはモンスターだと忘れてはいけない。
あのモンスターは迷い猫。姿は愛らしく、接近されても攻撃せずに喉を鳴らして体を擦り寄せてくるモンスターだ。なので一見無害かのように思えてしまう。
しかし迷い猫は混乱というスキルを持っている。徐々に探索者を惑わし、同士討ちまでさせる恐ろしい存在なのだ。




