第二百六十八話
前話の後書きに対して多くの方からご意見を頂きました。本当にありがとうございます。
「まさかここに来る事になるとは思わなかったなぁ」
「一般人で入れる者はかなり少ないですからね」
父さんが溢した感想に関中佐が答えた。俺と父さんは富士の麓にある陸軍基地内にあるダンジョンの管理施設に来ている。
「健康診断という建前になっています。使えそうな者は全員使うつもりですので、容赦なく確認して下さい」
ここは陸軍が直接管轄しているダンジョンのうちの一つだ。ここで強制労働させられている囚人から玉藻の神炎を試す被検者をピックアップする。
体内に疾患を抱えている者を洗い出すのに父さんのスキルは打ってつけだ。器具もいらず時間もかからないので大人数を確認できる上、機密保持の観点でも父さん以上に適任となる医師は存在しない。
「過労気味・・・過労気味・・・ストレス障害・・・健康・・・石灰沈着症!」
「関中佐、まずは一人確保ですね」
石灰沈着症は、関節にカルシウムの固まりが付着し痛みを発生させるという症状だ。これを神炎で焼けるか試そうという訳だ。
「あ、あんた達のせいで私はこんな所に!」
「はいはい、逆恨みなんてしてないで反省しましょうね」
俺と父さんを見るなり掴みかかってきた女性を落とし亀の大盾で防ぎ鎮圧する。どこかで見た顔だと思ったら、滝本本家筋のオバサンだった。
「優、神経性胃炎はどうだと思う?」
「炎症部分を焼いたら胃に穴が空きそうだし、ちょっと無理でしょう」
治癒する訳ではなく焼失させるスキルなので、炎症部分を焼いたらそこが穴になりそうだ。潰瘍ならば焼いて治せると思うけど。
診断の結果、三人が被験者として残された。石灰沈着症の元水中村村議会員と大腸ポリープがあった殺人犯の男性。それと初期の肝臓ガンが発覚した保険金殺人を犯した女性だ。
関中佐は錠剤が入った瓶を取り出すとそれぞれに一錠を飲ませた。三人はすぐに目を閉じ深い眠りへと落ちたのだった。
「中佐、それ、大丈夫なんですか?」
「万が一にも起きないよう強力な薬を使いました。機密保持が最優先ですからね」
中佐が手に持つ睡眠薬のラベルには、ナウマンゾウも一錠で熟睡!と煽り文句が書いてあった。これ、下手すると永眠するのではなかろうか。
まあ、それを気にしても飲ませた後なのでどうする事も出来ない。当初の予定通り検証を開始する為に玉藻へと変身する。
「まずは失敗しても影響少ない石灰沈着症からじゃな。右足の余分なカルシウム片だけを燃やすと・・・」
被検体の膝関節を神炎が覆う。すぐに神炎が消えたので父さんに診断してもらった。
「状態は睡眠のみ。膝関節は綺麗に治ってる」
「玉藻様、他の二人もお願いします」
同じようにポリープや癌細胞だけ燃やすようイメージして神炎を放つと、健康な臓器に全く影響を及ぼさずに病巣だけを焼失させる事が出来た。
「・・・滝本医師と玉藻様の組み合わせなら、どんな病気も治せそうですな」
「我が息子ながら、どこまでチートになっていくのやら」
確かに神炎はチートだけど、父さんの診断スキルがあってこそ十全の力を発揮出来る。焼く対象とその部位が明確になっている必要があるからだ。
「一家全員を警護する理由が出来たという点ではやりやすくなりますが、どこまで知らせるべきか・・・」
関中佐の苦悩がまた深くなってしまったようだが、職務なので頑張ってほしい。
前回緒方少将の命名理由を述べたので、今回は主役の優ちゃんについてです。
滝本優は前作「内緒のアイドル声優」の主役北本遊のアナグラムです。名字が滝本に決まった時、今回のキャストは声優縛りで行こうと思いました。
作者は中学生時代に当時高校生だった瀧本富士子さんにお会いした事があり、印象に残っていたのです。
姉と同じ高校に通われていた瀧本さんは当時から声優になると公言されており、見事にその夢を果たされました。




