第二百六十六話
「うおおおおおっ・・・って、ええっ、熱くない?」
轟々と燃え盛る炎に包まれているにも関わらず、緒方少将は少しも熱いと感じなかった。こんな炎が上がれば作動する筈の火災警報器やスプリンクラーも作動していない。
「妾の炎は望む物のみを焼き尽くす。妾は民間人じゃ、そちへの罰は軍に任せる事にしようぞ」
俺が指を鳴らすと炎が消え失せる。そこにはパンツ一丁となった、醜く太ったオッサンが立っていた。
「おい、この者を捕縛せよ。我が責任においてただ今をもって緒方少将の権限と階級を凍結、ただの犯罪者として扱う。取り敢えず重営倉に放り込め!」
「えっ、ちょっ、おい、俺を誰だと思っている!待て、このままじゃ・・・せめて服をくれ!」
山寺中佐の部下に連行される焼き豚少将(ただし生)。大声で喚いているが誰も耳を貸さない。そして怒声を聞いて見物に来た者にたるんだ体を晒していた。
「玉藻様、あれだけの炎に包んでおいて火傷一つ負わないとはどういった絡繰りで?」
「妾の炎は燃やす物を選択出来るのじゃ。なので下の下着以外の衣服だけ燃やそうと思えばああなるのじゃよ」
これは狐火の時から変わらない仕組みである。それを聞いた鈴置中将は考え込んだ後にとんでも無い事を言いだした。
「玉藻様、その神炎は人体の内部だけを焼く事も可能でしょうか。例えば臓器に出来た腫瘍や癌細胞だけを燃やすという風に」
「それは試した事が無い故答える事は出来ぬ。じゃが、もしも出来たとしたら・・・」
前述したように、回復魔法では傷の治療は出来て病気の治療は不可能だ。しかし、中将が言うように腫瘍だけ焼けたら?全身のウィルスだけ焼く事が出来たらどうなるか。
病巣だけを消滅させれば血管からの出血が無いので、体力が弱まり手術に耐えられない患者を救う事が出来るかもしれない。
脳の深部にあり切除出来ない腫瘍や多臓器に転移して全てを切除するのが不可能な患者も、腫瘍だけ選択して焼けば助かるかもしれない。
病気を治癒出来る世界で唯一の存在。そんな事が露見したら迷い家と関係なく争奪戦が繰り広げられる事は火を見るより明らかだ。
「ここに来て更に狙われる要素を増やさないで欲しかったのぅ」
「も、申し訳ありません玉藻様・・・」
つい溢してしまった愚痴に鈴置中将が謝罪する。だがこれは検証をしておかねばならない重要な事項だ。万が一家族が病気になった時に救えるかもしれないからだ。
父さんが病巣を特定し、俺が神炎で焼き払う。そうする事により両親も舞も病気で苦しむ事は無くなるだろう。
「関中佐、更に仕事を増やしてしまうがその検証の準備を頼む。これはダンジョン探索よりも優先だな」
「承知しました。被検体と口の固い協力者を手配しましょう」
こうして謁見後に関中佐がやるべき仕事が増やされたのだった。もし関中佐がストレス性胃潰瘍を患ったら神炎で治療しようと心に決めた。
「玉藻様、そろそろ移動のお時間です」
「もうそんな時間か、緒方少将のせいで慌ただしくなってしまったわ。玉藻様、参りましょう」
山寺中佐に促され、鈴置中将にエスコートされて用意された車に乗り込む。恙無く終わる事を祈ろう。




