第二百六十五話
翌朝九時にチェックアウトして近くの小さな公園で玉藻に変わる。そのまま上空まで空歩で駆け上がり、参謀本部の正門前まで走り着地した。
「うわっ、玉藻様ですね。ご案内致します」
いきなり空から降ってきた狐巫女に驚きはしたものの、すぐに立ち直り内部へと案内する門衛の軍人さん。驚かせて悪いとは思うが、歩いて来たら騒動になりそうなので許して欲しい。
応接室に通されお茶と茶菓子を出された。稲荷寿司を出されたらどうしようかと思ったが、流石にそれは無かったので一安心。
玉露を啜っていると扉をノックする音がした。入室を促すと関中佐と山寺中佐、以前に会った中将が入ってきた。
「玉藻様、関の上司で鈴置と申します。謁見はお一人で行われますが、控えの間までは同行致します」
「鈴置中将、丁寧な挨拶痛み入る。手間を掛けるが宜しく頼むぞえ」
無難に挨拶を交わしたが、三人の視線は俺の尻尾に注がれている。理由はモフりたいから・・・ではなく二本に増えているからだろう。
「先日種族が神使に変わってのぅ。その影響だと思うのじゃが尻尾が二本に増えよったわ」
「関より報告はお聞きしましたが、実際にこの目で見ると実感が涌きますな」
「宇迦之御魂神様は妾が世間に神使だと広まったのが切っ掛けではと申されたわ」
能力も向上しているので結果オーライだった。母さんが炊く迷い家産のお米と栗を使った栗ご飯は何杯でも食べられる絶品だ。
「お待ち下さい、貴官は立ち入る許可を得ていません!」
「ええい、邪魔だ!下っ端の癖に少将たる俺の行く手を阻むと言うのか!」
廊下が騒がしくなったと思いきや、扉がノックもされずに乱暴に開かれた。
「例の狐が居るのはここか!」
乱暴な言葉と共に部屋に姿を見せたのは、昨日滝本優の姿で会った豚少将・・・じゃなかった、緒方少将だった。
「緒方少将、ここはこの時間将官でも許可なく入室出来ないと通達がされていた筈だが?」
「鈴置中将、用はすぐに済みます。おいそこの狐、謁見の後迎えの兵をやるからそのまま特別攻略部隊の本部に来い」
傲慢さを隠そうともしない緒方少将の言葉に、この部屋の全員が絶句してしまった。民間人の俺や階級が下の関中佐と山寺中佐だけならまだしも、階級が上の鈴置中将が居るのだが。
「妾は宇迦之御魂神様の御依頼により動いておる。他の者の命を受ける謂れは無いぞえ。それともそちは宇迦之御魂神様より高位の存在だとでも宣うのかのぅ」
「神の使徒?そんなのどうせ山寺と関が結託して造った話だろう?それなら俺がもっと上手く活用してやると言っているのだ。つべこべ言わずに従え!」
堪忍袋の緒が切れた俺は神炎を生み出し、見た目を狐の姿に変えた。
「その言葉、神に対する暴言と受け止めた。特別攻略部隊とやらは妾と宇迦之御魂神様に敵対したと見做す。檻にでも入って後悔するが良いわ!」
炎の狐が緒方少将に触れると同時に火柱へと変化した。緒方少将は咄嗟に腕を交差させて顔を守るが全身が炎に包まれた。
「えっ、ちょっ、玉藻様!焼き豚の調理するなら厨房で焼いて下さい!」
「山寺、様子を見よう」
慌てた山寺中佐が駆け寄ろうとしたが、関中佐がそれを押し留めた。あと山寺中佐、その焼き豚、俺は食べたくないからな。




