第二百六十四話
「おい、貴様は情報部の軍属だな?」
声をかけられ振り向くと、軍人とは思えぬ太った体にはち切れそうな軍服を纏った男が偉そうにしていた。階級章を見ると少将の物だったので、実際に偉いのだろう。
「私は情報部所属の軍属で滝本優と申します。准尉相当となります」
「やはりそうか。お前に命ずる、狐巫女を俺の所に連れて来い」
いきなりとんでも無い命令をする豚少将。こいつが以前に関中佐が言っていた緒方少将だろうか。
「私は軍属といえども情報部に属しております。故に命令は情報部をお通し下さい」
「急ぎだから直接命じている。つべこべ言わずに連れて来い!」
あ、こいつは完全に会話が出来ないタイプだ。適当にあしらって退散させて貰うとしよう。
「申し訳ありません、私は狐巫女の所在も連絡先も存じておりません」
「嘘をつくな、情報部の者ならば狐巫女と接触しているだろう!水中ダンジョンを情報部が封鎖、狐巫女が潜ったと聞いているぞ!」
こいつはどこからか冬馬パーティーと玉藻の合同作戦の内容を聞いたようだ。これは関中佐に知らさねばならないな。
「私はその件に関与していません。恐らくですが、私があの事件の当事者なので外してくれたのでしょう」
「貴様は使えるスキルを持っているらしいな。なのに関わっていないなんて嘘は無理があるぞ」
疑い深い豚である。ならば決定的とは言えないがそれなりに説得力がある証拠を示してやろうじゃないか。
「これをご覧下さい、私は1999ダンジョンに入った履歴がありません。この履歴を偽造する事は不可能ですから証拠になると思います」
俺はステータス画面のダンジョン探索実績画面を可視状態で緒方少将に見せた。他のダンジョンで二十一階層まで到達している俺が1999ダンジョンに入っていない事がわかる。
「ふむ、これだけの実績があるなら関与していて入っていないのは不自然か。こやつ、本当に関わらなかったのか」
自分で言うのもなんだが、少将の言うようにこれだけの実績がある探索者を地上での警戒などに回すのは勿体無い。パーティーに同行させるか支援要員として潜らせるのが効率的な使い方だ。
しかし不正が出来ないステータス画面に一階層にすら潜っていない事が表記されている。ならば関わっていなかったと考えるのが当然だ。
「任務に遅れが出ますので、御前を失礼します」
「あっ、ああ、行ってよいぞ」
少将の予想が外れて半ば混乱した隙を突いて離脱した。普通に歩いているように見える最大限の速さで歩き参謀本部からの脱出に成功した。
参謀本部から離れ、追いかけて来ていないと確信出来たので立ち止まり関中佐に電話する。緒方少将と思われる人物に呼び止められた事と会話の内容を報告しておいた。
結局豚少将は名乗らなかったので緒方少将だと断定は出来ないのだが、容姿の特徴を言ったらほぼ間違いなく緒方少将だと関中佐が太鼓判を押してくれた。あれだけ太った少将というのは少ないのだろう。
その後決められたルートを巡回したが何事もなく終了し指定されたホテルにチェックインする事が出来た。
お巡りさんに呼び止められて補導されかかったけど、軍属で任務中だと身分証を示して解放された程度はトラブルとは言えないよね。




