第二百六十話
『それと、配下の報告では全ての果実で特殊な効果は確認出来なかったそうじゃ』
「それは気になっていたので助かります、ありがとうございました」
宇迦之御魂神様も想定外の事態という事で、念の為奉納した果実は調べられたようだ。神様のお墨付きならこの上ない保証となる。
『しかし、お主は次から次へとやらかしてくれおる。そなたを寄越した向こうの神に感謝せねばのぅ』
「この世界に来れた事は私も感謝しておりますが、その理由はちょっと・・・」
俺、神様が喜ぶ程やらかしてるか?せいぜい正月の事件に板橋の氾濫水中村の件に今回の種族変化。思い起こすと一年足らずで色々あり過ぎなような気もする。
『これからもその調子で頼むぞえ。それと、尊崇の念が籠もった料理は美味しくいただいておる。そなたの母御に礼を伝えてくれんか』
「そのお言葉、必ず伝えます。母も喜ぶでしょう」
宇迦之御魂神様との会話に集中していた意識を戻すと、母さんと舞が俺をじっと見ている事に気づいた。二人からすれば俺はブツブツと独り言を言っていたのだ。奇妙に思ったのだろう。
「玉藻ちゃん、言葉の内容から察すると神様とお話していたのかしら?」
「うん。種族が変わった影響だと思うけど、宇迦之御魂神様のお声が聞こえるようになった。奉納してる母さんの料理、美味しかったから礼を言ってくれと頼まれたよ」
「えっ、神様にお褒めいただけるなんて・・・」
伝言を伝えると母さんは放心状態になってしまった。自分の料理を神様にお褒めいただけるなんて夢にも思ってなかっただろうから仕方ないね。
「それと、果実には変わった効果は無いと仰ってたよ。桃も食べて大丈夫みたいだ」
「良かった。舞、桃大好きだから食べたい!」
あのままでは桃を食べるのも不安だったし、鑑定に出すのも効果があった場合不味かったからあちらで確認してくれて本当に助かった。
その後舞が母さんの手を引いて歩き迷い家から出た。果実が入った籠を持って迷い家から出ると父さんが待っていた。
「随分と時間が掛かったな。勝手に入るのはマズイかと思って迎えに行かなかったが何かあったのか?」
「あったと言えばあったよ。発端はこれだったんだけどね」
そう言って二本に増えた尻尾を見せる。そして判明した一連の事を順番に話していった。
「で、これが新たに出来た果樹園で収獲してきた果実。後で食べてみよう」
「いや、こうなるともう何が起きても不思議じゃなくなるな」
呆れを隠さない父さん。原因は俺じゃないからそんな目で見られても困る。俺は父さんのジト目から逃れるようにまだ呆けている母さんの所に行く。
「母さん、呆けてないで正気に戻ってよ」
話しかけても肩を揺すっても母さんは自分の殻に閉じこもったままだった。
「お姉ちゃん、舞に任せて。お母さん、モフモフだよ」
「ふわぁ、モフモフに挟まれてる・・・」
舞が俺の尻尾で母さんの顔を挟むと、それぞれの尻尾を手で固定した母さんは顔に押し付けて頬ずりしだした。
「流石お姉ちゃんの尻尾。お医者様や草津の湯よりも効くわね」
「俺の尻尾は恋の病の特効薬かっ!」
とりま、母さんが正気に戻ったので取って来た野菜の天ぷらで夕食を食べた。食後のデザートに食べた迷い家産の桃は、これまで食べた桃の中で最も美味しい桃だった。
「お兄ちゃん、これ食べ放題ってヤバくない?」
「これはヤバいよなぁ。幾らでも食べれそうだ」
その後滝本家ではお店で桃を買わなくなったのは言うまでもない。




