第二百五十九話
さて、改めて考えよう。現時点で判明している変化は種族名が変った事と狐火が神炎になった事、尻尾が二本に増えた事だ。
「母さん、舞。そろそろ迷い家に入ろうかと思うんだけど」
「そう言えば、玉藻ちゃんになったのはお野菜を貰う為だったわね」
思い掛けず尻尾が増量していて忘れていたが、元々は畑で野菜を収穫するので玉藻になったのだ。尻尾を放してもらいその本分を果たさねばならない。
「お姉ちゃん、あれ・・・」
「前は無かったわよね?」
迷い家に流れる小川には石橋が架かっていて、その奧には果樹が生えたわわに実を成らせているのが遠目にもわかった。
「多分、種族が変わって強化されたんだろうなぁ」
ぱっと見ただけでもサクランボに桃、びわや無花果。柿や栗に林檎や蜜柑まで生えている。季節という物をガン無視してるのは今更か。
「母さん、野菜の収穫が終わったら栗を煮て貰えるかな。宇迦之御魂神様に奉納したいんだ」
母さんと舞に野菜の収穫を頼み、その間俺は栗拾いを行う。イガだけを神炎で焼いたので中身を拾うだけの簡単なお仕事だ。集めた栗を母さんに渡し、舞と一緒に奉納する果実を収穫する。
「ねえお姉ちゃん、この桃食べたら若返ったりするのかな?」
「ああ、桃太郎の桃とか仙郷の仙桃みたいな感じか」
桃太郎は流れてきた桃を食べて若返ったお爺さんとお婆さんの子供なのだ。それでは子供向けにマズイので改変された経緯がある。
「桃は食べない方が良いかもな」
前世でも今世でも桃は大好きなので食べてみたいが、もし若返ってしまったら大事になる。
「もし若返り効果があってそれが世間に知られたら・・・」
「関中佐でも抑えられない騒動になるだろうな」
若返るアイテムなんて権力者が欲しがる者の筆頭と言える。それを求める権力者はこちらの都合など全く考えずに奪おうとするだろう。
「まあ、そんな効力があると決まった訳じゃない。他の果実なら安心だろうしそっちを楽しもう」
台所に向かい母さんから栗を受け取る。舞と母さんも詣でたいと言うので一緒にお社に参った。収穫した果実を奉納して宇迦之御魂神様に祈る。
「迷い家が広がり果樹園が出来ていたので奉納致します」
『これはこれは見事な果実じゃ。栗を煮ている心遣いも良いのぅ』
今、宇迦之御魂神様のお声が聞こえたような気がしたのだが。確認の為に宇迦之御魂神様に話しかけてみよう。
「念の為煮てから奉納させていただきました。母も妹も宇迦之御魂神様にはいつも感謝しております」
『えっ、ちょっ、まさか妾の声が届いておるのか?』
慌てた様子の宇迦之御魂神様のお声が脳裏に響く。これは神様も想定外の出来事だったようだ。
「聞こえておりまする。種族名が妖狐から神使に変わりましたので、その影響かと愚考致します」
『ふむ、種族名がのぅ。名実共に妾の眷属となった故声が届いたのかもしれんの』
種族名が変わった事を宇迦之御魂神様はご存知ではなかったようだ。となると何が影響して変わったのだろうか。
「つい先程二尾になっていて気づきました。何が切っ掛けで変わったのか皆目見当もつかないのです」
『ふむ・・・人の世に神使だと広まったようじゃの。恐らくそれで世界に認定されたのじゃろう。検証も出来ぬ故憶測でしかないがのぅ』
検証するには俺以外の妖狐が必要だが、三人分のスキルの器を転生者に持たせられる機会などほぼ無いから無理なんだよなぁ。
その理由を知った所で何も変わらないし、考えなくても良いかもしれないな。




