第二百五十五話
先生方の質問攻めも終わり、舞と一緒に帰路につく。少し遅くなったけど混雑する時間ではない。電車は空いていて並んで座る事が出来た。
「お兄ちゃん、私が離された時に聞かれたのって」
「ああ、玉藻の依頼主についてだったよ」
噂がどこまで広まっているのか分からないので、他の乗客に聞かれても支障がないように話す。
「やっぱり。それ、私のクラスでも噂になってたよ」
「そっか。俺のクラスでもヒソヒソ話してた生徒がいたから、多分それだろうな」
取り敢えずそれらを纏めて関中佐にメールしようとしたが、電車が終点に着くので乗り換えてからにしよう。
高崎線のホームに移動し乗り換える。本数が多いから待ち時間が少ないのは助かるな。こちらも空いていたので座ってメールを打つ。
「舞、ありがとうな。舞のクラスでも噂になってたと中佐に伝えておいたよ」
お礼を言うと頭を寄せて来たので撫でる。他の乗客が優しい表情で見ているけど気にしない。じきにスマホが振動して関中佐からの返信が着いた事を知らせてくれた。
「夕方に直接話に来るってさ」
「それじゃあお土産を用意しないとね」
中佐に干し芋やバナナチップスといったお土産を渡すのは定番になっている。そろそろ新しいメニューを考えないと飽きられてしまうかもしれない。
家に帰り着替えたら遅めの昼食だ。母さんが玉子サンドとカツサンドを用意してくれていた。それを食べたら医院に移動する。夕方に関中佐が来る事を母さんに伝えなければならない。
「優ちゃん、大変な事件に巻き込まれたわね!」
「おばちゃん心配したわよ!」
俺が顔を出すと診察を待っていたお姉さん方(例え自分がおばちゃんと言っていてもこちらが思ってはいけない)に囲まれてしまった。
心配してくれた事に対するお礼を個別に言って離れて貰うまでに少々時間を要したが、心配してくれた人を無下にはできない。
「母さん、夕方に関中佐が来る事になったから」
「そう、詳しい話は閉院後に聞くわ」
端的に中佐の訪問だけを言ったので、母さんは理由はここで言えない事だと予想してくれたようだ。俺は患者さん達に頭を軽く下げてその場を離れた。
関中佐が来る前におやつの作り置きをしておく事にした。迷い家産の薩摩芋を使って大学芋を作る。冬馬パーティーに出した時は好評だったから、関中佐へのお土産にしても大丈夫だろう。
「ところで舞さんや、あまり食べ過ぎると夕食が入らなくなるぞ」
「大学芋が美味しいから手が止まらないの」
味見と称して大学芋を摘んでいた舞を止め、冷めた物をタッパーに移して冷蔵庫に入れた。多目に作ったから半分を関中佐に渡してもうちの分は十分に残る。
医院の診察時間が終わり、後処理も終えた両親が帰ってきた。俺と舞はリビングで学園での事を報告した。
「それじゃあ玉藻ちゃんが神の使徒だと噂が立っているのね」
「みたいだね。知っているのは教師達と一部の生徒だった。ある程度以上の上流階級に流れてるのかな?」
ベルウッド学園には上流階級の子弟が多い。生徒は家で親が話していたのを聞いたのだろう。
「それで、噂になって優に都合の悪い事になったりしないのか?」
「玉藻が目立つ事になるから勧誘が増えるかもしれないね。でも、それは今更かな」
これまでも勧誘目的で追い回されてきたからな。それが増えた所で大した違いは無いだろう。
「まあ、普通の思考なら神の使徒にちょっかい出そうとは思わないだろうがな」
「普通じゃないのが居るからなぁ・・・」
普通な思考回路の持ち主だけなら関中佐も仕事がかなり楽なのだけどね。




