第二百五十三話 とある参謀本部にて
「おい関、ちょっと待て」
「これは緒方少将、何か御用でしょうか?」
優が舞とまったり過ごしている午後、冬馬パーティーに回す武具の手配に奔走していた関中佐は小太りのオッサンに呼び止められていた。
「用があるから呼び止めたんだろうが。お前、話題の狐巫女と接触したそうだな。そいつを俺の部隊に回せ」
「お断りします、用がそれだけなら失礼します」
即断で断った上に立ち去ろうとする関中佐。緒方少将は断られると思っていなかったのか、すぐに反応できず一瞬固まっていた。
「こら、待て待て待て!これは命令だ。お前に拒否権なぞ無い!」
「貴官は他部署の人間です。階級が上でも本官に対する命令権はありません。正式に鈴置中将へ依頼の上、中将の命令書をお持ちの上でお願いします」
緒方少将は皇居ダンジョンを攻略する特別部隊の責任者であり、情報部の上官ではない。いくら階級が上でも関中佐に対する命令権は無いのだった。
「無能なお前でも分かるだろう?話題の狐巫女が特別部隊に入り活躍したとなれば陸軍の株は爆増するとな」
「なんと言われようと無理です。大体、彼女は軍の者ではなく協力者です。特別部隊に入れるのは不可能ですよ」
冬馬パーティーとの探索は玉藻が軍の指揮下に入った訳ではなく、軍の依頼を単発で受けた形となっていた。
「そこも気に食わないな。さっさと軍に入れて探索させれば良いだけの話だ」
「それこそ無茶と言う物です。玉藻様は・・・」
「聞いたよ。神の使徒だって?だったら尚更だ。神の使徒が皇居ダンジョンを攻略し帝国の為に尽力する。臣民が泣いて喜ぶ話じゃないか」
関中佐の反論を遮り持論を展開する緒方少将。そこには玉藻の意思などなく少将の欲望だけが反映されていた。
「嫌がるようなら俺様が調教してやるさ。従順になるように、な」
「神より使命を託された使徒様の対して、そのような事を許すとでも?」
関中佐は視線だけで殺せるのではないかという程の圧力を乗せて緒方少将を睨む。しかし少将は少し怯みはしたものの、再び口を開いた。
「それもどうせブラフだろう?まあ、そんなのは関係ない。間抜けな臣民に信じさせ、帝国が神の国だと再認識させれば良いのだ。鈴置中将には話をして命令書を準備させる。お前は狐を連れてくる準備をしておけ」
言いたい事を言い放った少将は醜く太った体を揺らして去って行った。
「目を付けられるとは思っていたが、予想より早かったな」
思わぬ仕事が増えた関中佐は、頭痛を堪えて歩き出した。しかしその目的地は少将の会話前とは違っていた。
「おい、山寺はいるか!」
「関、お前はノックという物を知らんのか!」
監査部のドアを開けるなり叫んだ関中佐に対し、手近にあったヤカンを投げつつ山寺中佐が叫び返す。
「関中佐、山寺中佐、漫才するなら別室でお願いします!」
「「ゴメンナサイ・・・」」
監査部部員の叱責に対して反射的に謝る二人の中佐。彼等はそのまま連れ立って部長用の執務室に入っていった。
「で、何があった?」
「実はな・・・」
関中佐はノックもせず乱入する事で緊急だと伝え、山寺中佐は大袈裟に反応する事で自然に別室に行ける環境にする。阿吽の呼吸による見事な連携プレーだった。
「気持ちは分からんでもないが、玉藻様の不興を買っては元も子もないからな。奴等への監視を強めよう」
「頼む。俺は次の探索の準備があるからな」
これから本格的な探索に入ろうかという矢先に暴走する皇居ダンジョン探索部隊。関中佐と山寺中佐の受難は続く・・・




