第二百五十一話
帰り道は順調だった。対峙している以外のモンスターの動向にも気を配る戦いの経験を積んだ彼女らには全員で一匹のモンスターに集中出来る戦いは楽な物になっていた。
「まさか、ここまで楽に倒せるとは思いませんでした」
「群れ狼との戦いが良い経験になったようじゃのぅ。これで武具を変えればまだまだ先に進めるじゃろう」
冬馬伍長達は、以前の限界だった跳び百足に対しても余裕を持った戦いが出来るようになっていた。不意を突いて繰り出される尾の攻撃に危なげなく対処出来ているのが大きい。
行きと同様にレイスだけは俺が倒していったが他の戦闘は危なげなく三人が熟していった。帰りは戦闘がスムーズになった事と消耗の減少による休憩回数の減少で一泊だけで地上に帰り着いた。
「玉藻様、お疲れ様でした」
「ありがとう、関中佐。まさかずっとここにおったのかえ?」
「いえいえ、二日目から四日目は他の仕事をしておりました」
流石に一週間も部長が不在というのは不味かったのだろう。それでも数日はここに詰めていたのだから、皺寄せを食った部員さんは大変だったに違いない。
「検証の結果なのじゃが、再度潜り直す必要がありそうじゃ」
「と言われますと、探索中に何か不具合でも発生しましたので?」
「不具合ではなく、単純な見落としじゃな。彼女らの武器ではゴーレムを倒せなんだ。故に十七階層までしか潜れんかったのじゃ」
これは関中佐も完全に見落としていたようで、指摘すると驚きを顕にしていた。俺も途中で気付いたから偉そうな事は言えないのだけどね。
「スタンスラッグを倒すかどうかも考える必要があろう。あれもちと特殊じゃからな」
「あれはスルーしても良いと思いますが・・・」
倒すのに難儀する割にはドロップに期待が出来ないからなぁ。さっさと無視して夫婦鶏を倒しに行くほうが有益だ。
「その辺も含めた調整を頼むぞえ。それと、レーションが余っておるのじゃが一旦戻した方が良いかのぅ」
「それには及びません。数量だけ報告していただければ大丈夫です。次回の探索時に不足分を追加で搬入するようにします」
レーションの箱を出し入れしなくて済むのは助かるな。そうそう、戦利品を渡しておかなければ。
「それと、戦利品を渡すのは東京の方が良いかのぅ」
「そうですな。市ヶ谷で渡して頂けると搬送の手間が省けて助かります」
俺としてはここで出しても市ヶ谷で出しても手間は同じだ。ならば中佐が楽な場所で出せば良い。という訳で一旦市ヶ谷に移動する事となった。
「玉藻様、根回しや武具の準備で次回は九月になりそうですがよろしいですか?」
「手数を掛けるが通達をしてもらえると助かるの。すまぬが頼むぞえ」
夏休みが終われば学校に行かなければならない。今回のように一週間続けてダンジョンに籠もるとなれば休む必要があるので、滝本優が学校を休む工作をして貰う必要があった。
この車は情報部がクリーニングをしているので盗聴器などの心配はないとなっているが、念には念を入れて玉藻が優だと分かるような会話は避けた。
車は何事もなく市ヶ谷の参謀本部に入った。廊下を関中佐と共に歩いたが、軍施設を狐耳と尻尾装備の巫女さんが歩いているのだ。注目度は半端なく行きあった人が漏れなくガン見するのだった。




