第二百五十話
俺は無防備にゴーレムに向かって歩く。間合いに入ると同時に振るわれた右ストレートを左にステップして避け、目の前の腕を抱えて引っ張る。
パンチの勢いに加え俺に引っ張られたゴーレムは前のめりになりつつもたたらを踏んでこらえようとした。しかし体重が掛かった右足を払われ無様に転倒する。
ぶつかるのを避ける為に後ろに退避し、着地すると同時に前方に跳ぶ。空中で回転し遠心力を乗せた踵落としをゴーレムの頭部に食らわせた。
「流石に一撃では沈まぬのぅ」
「いやいやいや、ゴーレム相手に肉弾戦してる時点で可怪しいですよ玉藻様!」
久川上等兵からツッコミが入るが気にしない。狐火が通用しないので、これが一番簡単なのだ。斧槍を使えばもっと楽だが、優の武器を玉藻で使う訳にはいかない。
倒れたゴーレムは起き上がろうとするが、右腕を抱き込み関節を逆に曲げる。上半身を起こそうと腕に体重が掛かっていたので、左腕で攻撃しようとすれば少し起き上がった上半身がまた地に伏せる事になる。
結果、俺は反撃を受ける前に右腕の肘から先をもぎ取る事に成功した。このままではヤバいと悟ったゴーレムは、起き上がらずに転がる事で俺との距離を取る。
何とか立ち上がろうとするゴーレムの頭部に狐火を三連続で叩き込んだ。殆どダメージは入っていないが構わなかった。
狐火の炸裂でゴーレムの視界が塞がれた瞬間、空歩を発動して駆け上がる。俺を見失ったゴーレムの頭に体重を乗せた蹴りを食らわせると、やっと立ち上がったゴーレムは再び地面を抱擁する事となった。
「玉藻様、真似をするなと言ってたけど・・・」
「絶対に無理よねぇ」
冬馬伍長と井上上等兵が現実逃避をしているようだが気にしない。これ位ならパワー系の獣人でも出来るから。多分。きっと。出来る・・・よね。
あまり時間を掛けるのも良くないので、そろそろトドメを刺す事にする。倒れたゴーレムの背中に乗り、両手で頭部を抱える。そのまま力任せに引き上げ、首に負担を掛けた。
二度も強い衝撃を加えられた首は持続的な負荷に耐えきれなくなり、罅が入ると呆気なく割れてしまった。タフなゴーレムも、頭部をもがれては魔石へと変わらざるを得なかった。
「さて、それでは帰途に就くとしようかのぅ。何時まで呆けておるのじゃ、また群れ狼との戦いが待っておるのじゃぞ」
帰りも十六階層を通るので、十五階層への渦に着くまでに遭遇する群れ狼を排除しなければならない。間引きはするが三匹は任せるので呆けたままでは困るのだ。
「火の玉での遠距離攻撃に近距離戦でのあのパワー。玉藻様、迷い家が無くても最強なのでは?」
「神の依頼を受けておる身じゃからのぅ。これ位は出来ぬと面目が立たぬよ」
玉藻の価値は迷い家だけではなく戦闘力も高いと軍に知らしめる狙いもある。玉藻の価値が高ければ高い程、繋ぎ止める為の助力を惜しまなくなるだろうから。
「それ、群れ狼のお出ましじゃぞ」
先程まで呆けていた三人だったが、戦闘となればちゃんと意識を切り替え大過無く群れ狼を退けた。
帰り道では十五階層への渦に着くまでに四回の戦闘を行った。この日はここで探索を終わりとし、迷い家に宿泊するのであった。




