第二百四十九話
冬馬パーティーは見事に群れ狼三匹を倒しきった。しかし二匹の攻撃を凌いでいた冬馬伍長の消耗が激しい。魔石を拾うとすぐに迷い家に退避した。
「いてて、流石に無傷とはいかなかったわ」
「それでも二匹の連携攻撃を往なしたのは大した物じゃよ」
冬馬伍長は爪や牙の攻撃を完全に避けきれず、数か所に浅い傷が出来ていた。しかし軽い出血はあるものの、今後の戦闘に大きな支障が出る程では無かった。
手当てを行い体力の回復を図る。その間にも三人は戦闘の反省と改善点の洗い出しを行っていた。俺も見ていて気付いた事があれば発言した。
その後二回戦闘した所で今日の戦いを終えた。一戦する毎に連携が上手くなり、狼の攻撃に余裕を持って対処できるようになっている。
「ダンジョンの中で入浴出来るなんて、本当に夢のようです。傷が滲まなければ最高なのですけど」
「ヒーラーが居たら治せるのじゃがな。希少な治癒魔法使いはダンジョン攻略に回される事はほぼ無いからのぅ」
病を治す事は出来ないが、傷を治せる治癒魔法使いは存在する。しかしその数はかなり少ない為、ダンジョンに潜る事はなく大病院で手術時の治癒をする者が殆どだ。
「迷い家に常駐ならば安全なので一人回してもらえませんかね」
「そうしたら飛躍的に到達階層が更新されるのに」
井上上等兵と久川上等兵が言う通りで、体力の回復に加え傷の治癒まで出来るようになればかなり積極的な戦闘が可能となるだろう。
しかし、それを実現するには迷い家の能力を公表する必要があるだろう。関中佐の判断次第だが、現段階でそれを行うのはメリットよりもデメリットが大きいと思われる。
翌日、一度の戦闘を経て十七階層に通じる渦へと到着した。戦闘後に休息は取ってあるので三人はほぼ万全の状態を保っている。
「冬馬、一当てしてゴーレムの固さを体感してみるかの?」
「やってみたいとは思いますが・・・」
「安心せい、攻撃したゴーレムは妾がキッチリ倒すでの」
攻撃したモンスターをそのまま放置して逃げては氾濫を起こす事になってしまう。それを心配したようだが、倒してしまうので問題ない。
渦からあまり離れないようにしてゴーレムを探す。物欲センサー先輩が仕事をしたのか、中々発見出来なかった。
「要らぬ時はすぐ来る癖に、探すと出てこないのは勘弁して欲しいのぅ」
「まあ、次々と遭遇するよりマシかと」
苦笑いしながら律儀に答える久川上等兵。確かに先を目指している時や疲れて引き上げている時に頻繁に遭遇したら溜まったものではないな。
「ゴーレムは意外と早い故、気を引き締めてかかるのじゃぞ」
手始めに井上上等兵と久川上等兵が左右から接近する。ゴーレムは久川上等兵に薙ぐ形で腕を振るが、間合いに入る直前で右に逃げられ空振りした。
その隙に井上上等兵が左足に斬りつけたが、魔鉄の短剣では傷すら付けられなかった。続いて冬馬伍長が右足の膝関節を狙って切るも狙いは外れ脹脛に僅かな傷を付けるに留まった。
「これは倒せる気がしませんね。玉藻様はどうやって倒すのでしょう?」
攻撃がほぼ通じなかった冬馬伍長が呟く。そこに井上上等兵と久川上等兵も合流した。
「では、後は妾に任せてもらおうかのぅ。じゃが、これから妾が行う事は良い子の皆は真似をしたらいかんぞえ」
三人に選手交代する事を告げてゴーレムと対峙する。玉藻でのゴーレム戦は、彼女らには参考にならない戦いになるんだよなぁ。




