第二百四十七話
「久川上等兵、そう落ち込むではない。あれはある意味必然じゃからな」
居間に座り、酷い落ち込みようの久川上等兵を慰める。俺は更に言葉を続けた。
「冬馬伍長のようにバックラーや長剣といった噛み付きを防ぎやすい武具を持っておらんのじゃ。下手に短剣で防ごう物ならそのまま組み伏せられておったやもしれぬ」
「そうですね、私は低い姿勢から襲われたので蹴り飛ばせましたが、飛び掛られていたら避けるしか無かったかもしれません」
久川上等兵と同じく短剣装備の井上上等兵も同意する。冬馬伍長も頷いているので異論は無さそうだ。
「お主らの装備は浅い階層での間引きを想定した物じゃ。それでこの階層に来る事が間違いとも言えるのぅ」
「では、上の判断ミスだと玉藻様は仰るので?」
「そうじゃの、どこまで潜れるかを試すと言うのであれば、先に進んでも対応出来る装備を渡すのが筋じゃろう」
実際、冬馬パーティーでは次の十七階層を突破出来ないと思う。メイン火力である冬馬伍長の武器が魔鉄の長剣なのだ。俺が双剣として使っている剣を一本だけ持っていると考えてほしい。
あの剣では上手く関節を狙わなければ剣の方が折れてしまう。井上上等兵と久川上等兵が囮となって冬馬伍長は攻撃に専念すれば何とか、という所だろうか。
しかし、二人が装備する短剣ではゴーレムに対して脅威になり得ない。関節を狙っても刃が短いのでかなり接近せねばならず、そうすれば反撃を受ける確率は飛躍的に上がるだろう。
結果、ゴーレムは二人を無視しても問題はなく、冬馬伍長に集中出来るので関節を狙うのは難しく、倒せてもかなりの時間と体力を消耗するので残り時間を考えるとその先には行けないだろう。
「多対多の戦いを訓練しておらんかったのも原因じゃな。これまでは敵を避けても全員がその敵に集中しておるから問題とならんかった。じゃが、今回は皆が各々の敵と対峙しておったで他者の敵にまで注意をしておらんかった」
「それを考えるべきだったのは、リーダーの私ですね。今回のミスは私が責任を負うべきだ。久川が気に病む事はない」
「だとしても、危機を招く原因となったのは私が狼を通したからです」
自分に責任があると言い張り譲らない二人。保身のために責任転嫁する奴が多い昨今、こういう人達こそ大成してほしい。
「今は責任の所在を言い合うのではなく、どうやってリカバーするかを論ずるべきではないかのぅ。今ならば妾がカバーできるのじゃ、試行錯誤するなら絶好の機会じゃぞ」
「そ、そう言えば、狼を防いだ壁は玉藻様のスキルですよね。でも、拝見したスキルに障壁の類は無かったと記憶しておりますが・・・」
狼を防いだ瞬間を見ていた久川上等兵が質問してきた。自己嫌悪で心が沈んだ状態から浮かぶ事が出来たかな?
「あれは迷い家じゃよ。迷い家は妾が許可した者のみ通る事が可能なのじゃ。故に妾の許可が無い者は入口を抜けられず立ち往生する事となるのじゃ」
「それでは、玉藻様は任意の場所に強力な障壁を自在に出す事が可能という事なのですね」
「盾役まで熟せるって、玉藻様万能過ぎませんか?」
「玉藻様が居ればダンジョンの最下層まで行けそうな気がします」
三人が呆れたように感想を口にした。これだけでもかなりのチートだけど、優のスキルも活用したら更にぶっ飛んだダンジョン攻略が出来るんだよなぁ。




