第二百四十四話
翌朝、食事を済ませてダンジョン攻略の続きを行う。渦に着く前に遭遇した突撃牛を倒した所までは良かったのだが。
「この卑怯者!」
「冬馬伍長よ、それを言ってもどうしようも無いじゃろうに」
上空に向かって叫ぶ冬馬伍長に、それを呆れて眺める俺。井上上等兵と久川上等兵も苦笑いで眺めている。問題は十二階層に出てくるモンスターだった。
このダンジョンの十二階層も他のダンジョンと変わらぬ敵が出てきた。火鷹である。奴はこちらの攻撃が届かない高度から火の玉を撃ってくるので、これまでと同じく痺れを切らして降りてくるのを待つしか無いのだ。
迷い家によって有利になった点はある。普段なら荷物を持っている為に素早さが落ち被弾面積が大きくなっている久川上等兵が手ぶらで素早く動ける点だ。
彼女へのフォローが必要無い分楽な戦闘となっているのだが、撃たれる火の玉を躱すだけというのは結構なストレスになっているようだ。
「これまで全開で暴れられたので、ギャップで余計に腹が立つというのがあるのじゃろうなぁ」
「今回の探索で冬馬伍長に対する見方が激しく変わりそうです」
井上上等兵曰く、ここまで感情豊かな冬馬伍長は初めて見たとのこと。これまではパーティーリーダーの役を果たす事に集中していて、個人の感情を殺していたのかもしれない。
それでも道中に遭遇した火鷹を倒して十三階層に進出した。ここでは冬馬伍長が十二階層で溜まった鬱憤を晴らしまくった。
素早さと器用さ、知能が売りのコボルドは彼女らの敵ではなかった。素早い井上上等兵と久川に翻弄され、スキを見せると冬馬伍長に致命傷を与えられる。
「お主ら、確か次の十四階層が最高到達階層だった筈じゃの。その割には余裕があるようじゃが」
「消耗が激しくなるので先に進めなかったのです。それを考慮しなくて良いならば十四階層も越えられます!」
迷い家の居間で休憩し聞いてみると、冬馬伍長から力強い返答が返ってきた。井上上等兵と久川上等兵も胡瓜の塩揉みを食べながら頷いている。
「まずは一戦やってみようかのぅ。いざという時は妾が介入する故、安心して戦うがよい」
という訳で十四階層への渦を通る。程なくして現れた跳び百足に三人は臆する事なく立ち向かっていく。
「くっ、全力でも外殻に傷すら付かない!」
「久川、無理をするな!牽制に徹してくれ!」
短剣での一撃を跳ね返された久川上等兵に冬馬伍長が指示を飛ばす。その隙を逃さず尻尾を叩きつける跳び百足だったが、冬馬伍長はしっかりと把握していて後ろに跳んで難を逃れた。
「はあ、はあっ、やっと勝てました」
「お疲れ様じゃの。昼食も兼ねて長めの休憩を取るとしようかの」
井上上等兵と久川上等兵が短剣で足の関節にダメージを与え続け、冬馬伍長が隙を突いて関節に大振りの一撃を食らわせ叩き切る。
それを繰り返して動きを鈍くしていき、最後は頭部の少し後ろを断ち切って倒す事に成功した。しかし三人の消耗は激しく、まともに休めない状態で地上に戻るのは酷と言わざるを得ない。
迷い家への入口を開き母屋の居間で三人を休ませる。被弾はしていないのでゆっくり休めば進む事は出来るだろう。
この先の階層は彼女達には未知の世界だ。モンスターの情報は知識として知ってはいるだろうが、上手く戦えるだろうか。




