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第二百四十二話

「遅い遅い遅い、そんな攻撃当たると思ってるの?」


「ほら、こっちがお留守になってるわよ、右腕、いただき!」


 久川上等兵がオークを翻弄し、大きく振られた棍棒が空振りした隙に冬馬伍長がオークの右腕を切り裂く。肘の部分で分断された右腕は重力に従い地面へと落ちた。


「井上上等兵よ、二人はいつもこうなのかのぅ?」


「いえ、私もこんな二人は初めて見ました」


 楽しそうにオークを切る二人を遠い目で見守る俺と井上上等兵。一体どうしてこうなった?


 迷い家を出て初めのオークを倒した時はまだ普通だった。力と体力こそ強くなっているものの、オークの素早さは青毛熊と然程変わらない。青毛熊の攻撃を躱せる三人は余裕で躱してみせた。


 一度も攻撃を食らう事なく完全試合でオークを倒して見せた三人。そこまではこれまでと変わらなかったのだが。


 二頭目のオークが出現した時、それは起こった。冬馬伍長と久川上等兵が駆け出したと思ったら、素早い動きでオークを蹂躙しだしたのだ。


 いきなりの事に俺と井上上等兵は置いてけ堀状態となった。一応すぐに援護出来るよう身構えては居るがその必要はなさそうだ。


「あの蒸かし芋に向精神剤とか入ってませんよね?」


「畑から掘り出してそのまま洗って蒸したのをそなたも見ておったじゃろうが」


 調理の段階でそんな物が混入した可能性はほぼゼロだ。後は薩摩芋自体にその効果があったかだが、これまでもこの薩摩芋を使って料理をしているがこんな事は起きていない。


「大体、そなたも同じ蒸かし芋を食したじゃろう。もし蒸かし芋が原因ならばそなたも狂戦士化しておる筈じゃ」


 原因か何かと考えていると、身体中斬られたオークは力尽き光に包まれた。


「玉藻様、レアドロップが出ました!」


 冬馬伍長が嬉しそうにオーク肉を手に駆け寄ってくる。久川上等兵も輝くばかりの満面の笑みで、戦いを楽しんでいたのだろうと思わされる。


「それでは迷い家に仕舞うついでに休憩するとしようかのぅ」


 何故に二人が狂戦士と化したのか、本人達の口から聞く必要がある。今回のお茶受けは茄子の浅漬けを用意した。


「して、何故にあんな状態となったのか説明してくれぬか?」


「純粋に楽しかったのです。私は今まで、色々と考えながら戦っていました。しかし、今は何も考えずに戦う事だけに集中出来るのです。それが、凄く楽しかったんです」


「私もです。帰り道に必要な体力や荷物を運ぶ余力を考える事なく戦えるのが新鮮だったんです」


 冬馬伍長はパーティーリーダーとして次の戦いに備えた力の温存や帰るのに必要な体力配分等を常に考える必要があった。


 久川上等兵はポーターもしている為、荷物を運ぶ為に他の二人よりも多くの体力を温存する必要があった。


 しかし、今はそんな事を考えなくて良い。一戦毎に完全に回復するまでノンビリと休養出来るし、荷物も全て迷い家に放り込めば良いので持つ必要が無いのだ。


「二人がそんなに苦労していたなんて・・・」


「井上、それが役割分担という物だ。お前が気に病む必要はない」


 二人の思いを聞いた井上上等兵が落ち込むが、冬馬伍長が抱きしめて慰める。


「少なくとも、此度の探索の間はその悩みから解放されよう。これまでの鬱憤をモンスターどもにぶつけてやるが良かろう」


 この先テンション爆上げ状態のパーティーにやられるモンスター達は気の毒だが、そういう運命だと諦めてもらうとしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今まで味わった事の無い 美味しい物をお腹いっぱい食べて 力いっぱい暴れてストレス発散出来て なおかつ特別手当も支給される ホワイト職場 帝国陸軍は若人の参加を待っているぞ
[一言] HPや呪文使用回数の残りを気にしながら戦うのってストレス溜まりますからね え?ゲームの話じゃない? でもまあ、そういうことですよね 常に宿で一泊した状態で戦えるなら、多少の難敵でも気軽に戦…
[良い点] ラストバトルでエリクサーをふんだんに使ったバトルみたいなイメージか
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