第二百四十一話
「うわぁ、意外と消耗しないのですね」
「戦闘時間が短くなる分消耗が減るからのぅ、案外変わらぬ物なのじゃよ」
あの後二回の戦闘を熟したが、全力戦闘を連続で行っても三人にはまだ余裕があった。力を温存すれば戦闘時間が長引くので、全力で速攻倒した方が消耗しない事もあると思う。
「全力戦闘の楽しさを覚えた所に残念なお知らせじゃ。次の七階層での戦闘は妾が受け持たせてもらう」
「玉藻様がですか?司令では玉藻様は戦闘を行わないとなっていましたが・・・」
確かに彼女らが受けた命令ではそうなっていた。しかし、それを実行出来ない理由があるので俺が戦う必要があるのだ。
「練馬や板橋ならばそれで良かったのじゃが、ここではそうもいかぬのじゃよ。ここの七階層には特殊モンスターが出るでな」
「あっ、レイス・・・」
この前の氾濫騒動の元凶となったモンスターだ。ここ以外ならば七階層で出るのはゴブリンなので彼女らに任せられるのだが、この1999ダンジョンだけは魔法スキル必須なのでそれが出来ないのだ。
「納得したようじゃな。まあ、休憩時間と思うてノンビリするが良いわ」
七階層への渦を通ると、すぐにレイスが襲ってきた。しかしすぐさま狐火を発動し焼却する。レイスは為す術もなく魔石へと変わった。
冬馬伍長がそれを拾い先に進む。常に狐火を出したままにして歩き、レイスが接近し次第狐火を飛ばした。
「火の玉を出したままで待機状態にするなんて初めて見ました」
「久川上等兵、これは魔法ではなく妖術じゃよ。妾の種族が妖狐だと知っておろう?」
以前模擬戦をした時に俺のステータス画面を三人に見せている。その時にスキルが火魔法ではなく狐火になっているのも見た筈なのだが。
「そうなのですが、その後の戦いのインパクトが強すぎて・・・」
「まさか座っている相手に手も足もでないとは思いませんでした」
久川上等兵の井上上等兵も同調する。まあ、あの時は色々あったから見落としていたり覚えていなかったりしても仕方ないか。
などと話しているうちに八階層に到着した。道中九個の魔石を拾ったが持ち歩くと嵩張るので迷い家に置いておく。
「戦利品も持つ必要が無いから楽ですね。玉藻様が居ればダンジョン攻略の常識が変わりますよ」
「その為に宇迦之御魂神様から派遣されたのじゃ。そうでなくては困ってしまうわ」
久川上等兵の答えつつも九階層に向かって歩く。迷い猫はスペック的には普通の猫と変わらないので足止めにもならない。魔石を拾うのが面倒なだけだ。
九階層の落とし亀は当然スルーしていく。石畳の地下迷宮ステージで落とし穴の部分だけ土なので目立ってしまう。
「地面が土じゃない階層に出る落とし亀って不憫よね」
「絶対落ちてこない探索者を延々と待つだけの亀生って、可哀想だわ」
冬馬伍長と久川上等兵が落とし亀に同情しているが、だからと言って相手をしてやろうとは言い出さない。
十階層に入った所で迷い家を開き休憩する。今回の軽食は畑から掘り出した薩摩芋を使った蒸かし芋だ。
「玉藻様、このお芋も凄く美味しいのですが秘密があるのですか?」
「迷い家の畑から採れる作物は質が良くてのぅ。普通に調理しただけでもかなりの美味となるのじゃ」
井上上等兵の問に答えている間にも三人は夢中になって芋を食べている。この後オークとの戦いが待っているのだけど、お腹いっぱい食べて大丈夫なのかな?




