第二百四十話
ダンジョン攻略は五階層までは順調に進んだ。元々十一階層まで行ける実力があったのに加え、荷物持ちを兼務していた久川上等兵が戦闘に専念出来るのでその分楽になったのだ。
「六階層に入る前に休憩するとしようかのぅ」
三人はまだ余裕がありそうだったが、六階層はタフで力も強い青毛熊だ。万全の力で戦ってほしい。
「こうしていると、ここがまだダンジョンの中なんて信じられませんね」
「全くよね。ダンジョンの中で畳の間に座り緑茶飲みながら胡瓜の浅漬け食べる日が来るとは思わなかったわ」
井上上等兵が呟けば、冬馬伍長がそれに同調する。久川上等兵は胡瓜を食べて現実逃避しているようだ。
「市ヶ谷で体験してこういうスキルじゃと分かっておったであろうに」
「その通りなのですが、実際にダンジョンで体験するとまた思い知ると言いますか・・・」
精神的に回復出来たかどうかは少々微妙だが、身体的には疲れは取れただろう。
「このように何時でも何処でも安心して心身を休める事が可能じゃ。この後の青毛熊戦は全力で戦ってみるがよい」
「「「はいっ!」」」
それぞれの武器を持ち迷い家を出る。六階層への渦へと入り七階層に向かう最短距離を歩く。
「二時の方向、来ます!」
気配察知持ちの久川上等兵が叫ぶ。程なくして駆けてくる青毛熊が見えてきた。冬馬伍長が正面に立ち、井上上等兵と久川上等兵が左右の斜め後ろで控える。
四つ足で駆けてきた青毛熊はその勢いのまま突進してきた。冬馬伍長と久川上等兵は右に避け、井上上等兵は左に避ける。
三人が居た位置を通過した青毛熊は足を踏ん張ってブレーキを掛けるが、勢いに乗っていた重量物はそう簡単には止まらない。止まるまでに結構な距離を走ってしまう事となった。
行き過ぎた青毛熊が振り返り三人を視界に捉えようとしたが、その時既に三人は青毛熊に走り寄っていた。慌てた青毛熊は後ろ足で立ち上がり威嚇する。
しかしそんな威嚇に怯む三人ではない。先頭を走る久川上等兵に向かい右腕を振り下ろすも、上半身を右前に倒すようにして駆け抜けた久川上等兵には当たらなかった。
そのまますれ違いざまに青毛熊の左足を切りつけて離脱する久川上等兵。そのすぐ後ろを走っていた井上上等兵は左からすり抜け青毛熊の右足を切り走り抜ける。
左右の足を切られよろめいた青毛熊。体重を支えきれずに前足をついた所に最後を走っていた冬馬伍長が首への斬撃をお見舞いする。首を深く斬られた青毛熊は耐えられる筈もなく魔石へと変化するのであった。
「えっ、こんなにあっさりと青毛熊を倒せたの?」
見事な連携で青毛熊を倒した冬馬伍長だったが、あまりにもアッサリと倒してしまった事に戸惑っていた。
「お疲れ様じゃの。一旦迷い家でミーティングといこうかのぅ」
俺は青毛熊の魔石を拾い迷い家への入り口を開ける。三人を居間に座らせると瞬殺劇の理由を話し始めた。
「お主らはこれまでも青毛熊を倒せる実力はあった。じゃが、ここまで早く倒す事は出来なかったのじゃな?」
「はい。これまでも三人で倒しましたが、ここまで早くは倒せませんでした」
「六階層まで来る為に使った体力を回復し、この後の戦いの為の温存も考えずに本当の全力を出したからこその成果じゃよ。この調子で進むぞえ」
安全に休息をとれる事の効果を実感した三人は、明らかに入れ込みようが違っていた。このテンションを維持したまま先に進んでしまおう。




