第二百三十九話
「お、おい、あれ見ろよ」
「狐巫女さんだ!動画で見るより美人だなぁ」
停電があった日から二日経った。今日は冬馬伍長のパーティーとダンジョンに潜る日なのだが、軍からのお迎えが大宮駅西口に来る為送迎車用の乗降場に立っている。当然周囲には大宮駅を利用する人達が居るので、俺は人々の視線を一身に集めまくっていた。
少しの間待っていると軍のナンバーを付けた黒塗りの高級車が目の前に停まった。後部座席のドアから関中佐が降りてきた。
「玉藻様、お待たせしました」
「妾も先ほど来たばかりじゃ。関中佐、案内を頼むぞえ」
フカフカのシートに座ると車は静かに走り出す。走行音は全く聞こえず、振動も伝わってこない。窓から見る風景が後ろに流れているから走っていると判断出来る。
「目的地まで少々かかりますがご辛抱下さい」
「ここまで快適なら辛抱する事なぞありはせぬよ」
県道を法定速度で走った車は然程の時間をかけずに陸軍大宮基地の門へと到着した。車はチェックも受けずに基地内へと入って行く。
「大宮には情報部の作戦としてこの車が基地内を通過すると通達してあります」
車は止まらずに走り続けると別の門から基地の外に出る。これは俺が大宮基地に訪問したと思わせる為の韜晦だ。
今回のダンジョン探索は、いつもの練馬ダンジョンを使わない。まだ軍内部でも迷い家を秘匿する為、他のパーティーとかち合う可能性がある練馬を避けたのだ。
練馬を貸切にするという手もあるが、それでも基地の人間に冬馬パーティーと俺がダンジョンに向かうのは見られてしまう。
関中佐はそれすら避けたいとの事で、探索者も軍のパーティーも潜らない特異なダンジョンに向かっているのだ。
車は国道十七号を北上し国道十六号に入る。荒川を渡り川越に入り関越自動車道へと進んだ。俺達が目指すのは第1999ダンジョン、水中村だった。
あそこならば村全体が軍の指揮下にあるので一般の探索者は入ってこない。そしてギルドは昨日から冬馬パーティーと情報部の人達が封鎖して他の軍人も締め出しているそうだ。
「まさかこんな形であのダンジョンを利用するとは思わなかったのぅ」
必然の女神テミス様にお会いする機会があったら、あの事件も必然であったのか聞いてみたいものだ。あれが無ければ玉藻として軍に協力するのはもう少し先になっていただろう。
車は順調に走り水中インターチェンジで高速道路から降りる。温泉街を突っ切って山道に入り1999ダンジョンへと到着した。
車を降りて関中佐と共にギルドの建物に入る。入ってすぐのロビーでは冬馬伍長のパーティーが待っていた。
「玉藻様、本日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしく頼むぞえ。それと、そう固くならんでも良い。畏まっていては戦闘に支障を来すやもしれぬでな」
とは言うものの、それは無茶な要求だと自分でも思う。もし前世の俺が神の使いと対面したら、畏まるなと言われても絶対に無理だっただろう。
「隔壁で閉じ込めておったモンスターの処理は終わっているのじゃな?」
「はい。一匹残らず殲滅し、ダンジョン内に異常がない事も確認しております」
残っていたとしても狐火で丸焼きにするつもりだったが、そこはちゃんと処理されていた。
「準備が良ければこのまま潜るぞえ。構わぬな?」
「「「はいっ!」」」
緊張しながらも返事をした三人と共にダンジョンに入る。変に力が入ってミスをしなければ良いけど。




