第二百三十三話
実験を終えると、関中佐の案内で違う会議室に移動する。山寺中佐は後片付けの為に残るようだ。少し離れた部屋では大量の糧食と冬馬パーティーの三人が待っていた。
「知っているとは思うが、こちらのお方が玉藻様だ。これから君達には玉藻様のスキルを体験してもらい、当日使用するこれらの物資を搬入してもらう」
「中佐、搬入とはどういう意味でしょうか?」
何を言われているのか理解できないという困惑の表情を隠さずに冬馬伍長が質問してきた。まさかこの世界とは異なる空間を開いて物資を運び込むなんて夢にも思わないだろう。
「それをこれから玉藻様に実演して頂く。玉藻様、お願いいたします」
「了解じゃ。冬馬伍長に井上上等兵、久川上等兵じゃったな。通行許可も出した故、通り抜けられるぞえ」
迷い家への入口を開くと、三人は何が起きたのか理解出来ずに固まってしまった。
「これが玉藻様のスキル、迷い家だ。特別な空間を開いて入れるという破格のスキルだ」
「フリーズする気持ちも分かるがのぅ、取り敢えず仕事を熟してくれぬかな?」
俺と関中佐が段ボール箱を持ち迷い家に入る。少しして恐る恐るといった感じで段ボール箱を持った冬馬伍長が入ってきた。
「えっ、ここは・・・市ヶ谷に居た筈なのに」
「別の空間に移動するなどダンジョンで経験しておろうに。それと似た現象と思うておくがよい」
続いて入ってきた井上上等兵と久川上等兵も戸惑っていたが、回復すると会議室と迷い家を往復して段ボール箱を全て母屋の軒下に運び込んだ。
「これで全てじゃな。では中を説明しようかのぅ」
関中佐と山寺中佐にしたように畑や母屋、お社について説明した。一通り案内した後居間に座り、大学芋をつまみにお茶を飲んで休憩する。
「玉藻様。これって、ダンジョンの中でもここに入れるという事ですよね?」
「勿論じゃ。持ち込んだ物資はそのまま残る故、二週間はダンジョン内で安全に宿泊出来るぞえ」
「これまでは物資の残量や帰りの体力を考慮して攻略する必要があった。しかし玉藻様の迷い家があれば安全に休息を取れる為、戦闘に全力を尽くす事が可能となるのだ」
井上上等兵からの質問に俺が答え、関中佐が補足した。戦闘に全力を注げるという事がどのような結果を齎すか予想出来ない三人ではなく、目に見えて緊張しだした。
「そ、そんな歴史に残るような大役、私達で本当によろしいのでしょうか。最前線を行くパーティーの方が・・・」
「彼等なら確実に到達記録を更新するだろう。しかし、彼等は良くも悪くもプライドが高すぎる。記録を更新したら調子に乗って迷い家の事を喋りかねん」
皇居に発生したダンジョンの攻略を担当している部隊なら、久川上等兵が言うように間違いなく到達記録を更新するだろう。
だが、関中佐が言う通りプライドが高く自尊心が高いという欠点もあった。関中佐としてはまだ迷い家を公表したくないようで、当面彼らを使うつもりは無さそうだ。
「迷い家の事が知られれば、各国は黙ってはいないだろう。玉藻様の派遣を望むならまだマシで、誘拐や暗殺を試みる国も出ると予想される。なので迷い家の秘密は出来る限り公表を遅らせるつもりだ」
到達階層の記録が大幅に更新されたり、深い階層のレアドロップアイテムが多く出回れば不審に思われて探られるだろう。しかし、どうせバレるとしてもそれは遅い方が望ましいと俺も思うのだった。




