第二百三十二話
数日後、実験の用意が出来たとの連絡を受けて市ヶ谷へと赴いた。今回は玉藻の姿で訪れたのだが、門を守る兵士さんはすぐに対応してくれた。
「玉藻様、御足労いただきありがとうございます」
「此度の件は妾の要望による物。迅速な対応感謝するぞえ」
案内された会議室内には四人の男性が座っていた。一人はお馴染みの関中佐で、一人は山寺中佐だ。それは良いのだが、問題は残りの二人だ。
「こいつらは視覚と聴覚を封じています。こいつらは何処にいるのか、何が起きているのかを知る術はありません」
「こっちは一度だけ会っておる、水中村のギルド長じゃな。とすると、こいつは水中村の村長かえ?」
「その通りで御座います。もっとも、両方共に元と付きますがね」
迷い家という異空間の実験。下手をすると空間が閉じて落命するかもしれない危険な実験に使うにはうってつけの人材と言える。
「一応こいつらの前に小動物を使いますが、万が一もありますので」
「命が失われても嘆く者が少ないという点では適任じゃな」
話していても仕方ないので、実験を開始する事にする。まずは迷い家にカメラを仕掛けて妖狐化を解いた際の状況を見る。
「玉藻様、こちらは普通のカメラでこちらがダンジョン用カメラとなります。ダンジョン用の方は映像がモニターに転送されます」
迷い家に入ってすぐの所に二台のカメラを設置して外に出る。モニターには迷い家の長閑な風景が映し出されていた。
「入口を閉じるぞえ・・・映像は変わらぬのぅ」
「これは興味深い発見ですね。玉藻様の迷い家もダンジョンと同様の性質を持つという事が証明されました」
関中佐が少し興奮した様子で呟く。情報を扱う専門家だけあって、新たな情報を得られたのは嬉しいのだろう。
「では妖狐化を解くが・・・変わりませんね」
玉藻から滝本優に戻ってもモニターの画像に変化は無かった。どうやら妖狐化を解いても迷い家は維持されているらしい。
再び玉藻になり迷い家に入る。もう一台のカメラ映像を確認したが変化はなく、録画時間に異常も無かったので時間の遅延や停止も無いようだ。
「それでは小動物を入れてみましょう」
カメラに映る場所に小鳥と小型犬が入ったケージを置いて出た。妖狐化を解くが小鳥と小型犬の異常は見当たらない。
「大丈夫そうじゃのぅ。所で、普通はこういう実験にはマウスを使わんか?」
「あまりに小さい動物ですと異常を見落とす可能性が御座います。なので小鳥と小型犬という大きさが違う動物を御用意致しました」
俺の疑問に関中佐が間髪入れずに答えてくれた。細かい所まで考えて準備をしてくれる関中佐、頼れる良い上司である。
「まあ無いとは思うが、万が一こいつらに異常が出た時に考えられる対策は行いましたと言い張る必要がありますしね」
「あんな事を仕出かしたこいつらでも、何かあれば騒ぐ者は必ず出てきますからな」
小鳥と小型犬のケージを取り出し二人を入れて最後の実験を行う。入る許可を出すのが遅れて頭部を痛打したようだが、些細なミスなので無かった事にしてほしい。
「異常無さそうですな」
「そうですね、これで迷い家に誰かが居る状況でも優に戻って戦えます」
この先、相手によっては玉藻より優で戦う方が有利になる状況もあるだろう。その時に迷い家に誰かがいて戻ったらどうなるかと逡巡する、なんて状況になるのは避けられる。
「貴重な情報を得る事が出来たのぅ、協力に感謝するぞえ」
「玉藻様が到達階層を更新して頂ければ我々の利にもなります。協力は惜しみませぬ」
これで迷い家に関する検証は終わった。後はどんどんとダンジョンを攻略していこう。
 




