第二百三十一話
「皆さんお疲れ様です。代わり映えしませんが差し入れです」
「こんなに済まないねぇ。滝本君の干し芋とバナナチップスは美味しいからすぐ無くなるんだよ。マジで市販品より美味しいからね」
今日は市ヶ谷の情報部にお邪魔している。玉藻の聴取内容に間違いがないか滝本優の意見を聞きたいという名目だ。
「優君、いつもありがとうな。野郎どもに見られながらじゃ集中出来ないから応接室を使おうか。おい、俺の分も残しておけよ!」
渡したタッパーに群がる部員さん達は中佐の言葉を聞いているのか甚だ疑問だ。でも結構作ってきたから中佐の分も残ると思いたい。
応接室に入ると部員さんがお茶と茶菓子を持って来てくれた。真っ白な包み紙には巣ごもりと書いてある。
「見たことないお菓子ですけど、どこの銘菓なんですか?」
「これは長野に出張した部下が買ってきた物だな。黄身餡をチョコレートで包んでいる」
お菓子の話をし、部員さんが部屋から出るのを待つ。部員さんが退室し扉が閉まった瞬間、関中佐の態度がコロッと変わった。
「御足労頂きありがとうございます。玉藻様用のスマートフォンの用意が出来ましたのてお渡し致します。情報部で使用している物の上位機となっており、防諜対策は現在の最高レベルとなっています」
「ありがとうございます。玉藻の正体は部員さん達にも話していないのですね」
「はい、知る者は少ない方が良いと判断しました。知るのは私と山寺のみに御座います」
滝本優の姿で玉藻に対する対応をされるのには違和感を感じてしまう。玉藻口調で話した時の母さん達もこんな感じだったのだろうか。
「了解です、俺もバラさないよう気をつけます。それと一つお願いがあるのですが」
「我々に出来る事であれば全力でご協力させて頂きます。如何なる内容でしょうか?」
「実は、迷い家の検証をしたいのです」
今までは迷い家を秘匿していたから第三者を必要とする検証を行う事は出来なかった。しかし関中佐の協力を得られるのならやりたかった検証が出来る。
「玉藻から滝本優に戻った時、迷い家の中はどうなっているのかを知りたいのです。もし迷い家に影響が無ければ迷い家に人を入れた状態で優として戦えますから」
妖狐化を解いた時、迷い家の空間は維持されるのか。維持されるとして時の流れはどうなっているのか。内部に生物が居た場合、生存出来るのか。
「迷い家の内部はダンジョン同様電波が外と通じません。なのでカメラを設置して観察するという手が使えないのです」
「籠に入れた鳥や小動物を置いたままにして、カメラで録画しておきますか。いや、ダンジョン用の中継機も試すべきか・・・」
そうか、リアルタイムで見れなくても録画状態のカメラを迷い家に置いたままにするという手もあったか。やはり相談するというのは大切な事なんだな。
「実験用機材や動物を手配しますので、数日の猶予を頂けますか?」
「すぐに必要という訳ではありませんから、それは大丈夫です。お手数お掛けしますが宜しくお願いします」
関中佐は二つ返事で請け負ってくれた。結果次第では迷い家の使い勝手が更に向上する事になる。
「我々からも一つお願いがあるのですが、お盆明けに玉藻様としてダンジョンに潜っていただけないでしょうか。同行するのは前回と同じ冬馬パーティーとなります」
「勿論構いません。彼女達にはどれだけ話しますか?」
「玉藻様の正体と迷い家以外は話しました。迷い家は実際に体験させた方が良いかと思いまして」
言葉で伝えるよりも、実物を見せた方がインパクトは大きいだろう。何だか楽しんでいるように感じるのは気のせいかな?




