第二百三十話 陸軍情報部にて
ここは市ヶ谷にある陸軍情報部。限られた者しか入室出来ないその部屋に三人の女性兵士が召喚されていた。以前優と共にダンジョンに潜った冬馬伍長のパーティーだ。
「この任務は可能な限りの秘匿を求められる。重い責任を負う為今なら辞退する事も可能だ。どうするかね?」
「中佐殿、任務の内容も知らずに辞退と申されても判断のしようがありません」
呼び出されたにも関わらずいきなり任務辞退の意志を問われた冬馬伍長は困惑を隠せなかった。大体、軍の任務など秘匿性が高いのが当たり前なのだ。
「それを明かせば後戻りは出来なくなる。それ程の任務と言う事だよ」
「そんな任務、私達に務まるのでしょうか?」
弱気になった井上上等兵が聞き返した。彼女達は優れた実績を挙げたパーティーという訳では無い。階級もまだ低く、情報部の部長が直々に守秘の念を押してくるような任務を受けられる身ではなかった。
「滝本君との探索を熟した実績はあるだろう。今回も外部の協力者とダンジョンに潜るのが仕事だよ」
関中佐の答えに三人は警戒を強めた。それだけならばありがちな任務だ。なのに詳細は受けなければ話せないという。
一体どのような人物と組まされるのか。その危険度を推測しかねた冬馬伍長は二人の同僚を見る。二人も不安そうではあったが、拒絶の意思は感じられなかった。
「その任務、お受けします。説明をお願いします」
「まず受けてくれた事に礼を言わせてくれ。君達に断られたら次の候補を探すのに頭を痛める所だった」
組む相手に悩む程厄介な相手なのかと冬馬伍長は少し後悔した。しかし受諾の意志を伝えてしまった以上、今更撤回する事は出来なかった。
「世間で狐巫女と呼ばれる方を知っているな。彼女と共に潜れるだけ潜るというのが今回の任務だ。尚、補給も彼女が受け持つ為久川上等兵も戦闘に注力してほしい」
「あっ、あの獣人にも関わらず火魔法を使うという人とですか・・・」
組まさせる相手を聞いた三人の表情が曇る。彼女達は前回の任務で組んだ者との力量差に打ち拉がれたばかりだった。
そして今回組むのは板橋と水中で起きた氾濫で活躍した話題の獣人だ。彼女達の劣等感が大きくなっていく。
「そんな有名人と組むなら、最前線を張る強いパーティーの方が良いのでは?」
「今回は検証が目的だ。彼女のスキルによる支援で君達がどこまで潜れるかが重要なのだよ。それに、男性パーティーと組んで問題が起きてはマズいのでな」
検証云々は兎も角として、男性パーティーと組ませないと言うのは三人も納得出来た。獣人は常に引っ張り凧な為、報酬が安い軍に協力してくれるなど稀なのだ。
普通の獣人でもそうなのに、魔法が使える希少な狐巫女が軍に協力する。軍としてはこれを切っ掛けに軍へと勧誘する腹積もりだろう。
しかし、そこでセクハラ問題など起こせば勧誘出来る可能性はゼロとなる。ならばその可能性が無い女性パーティーを使うだろうと納得したのだった。
「尚、探索中は狐巫女・・・玉藻様の指示に従うように」
「巫女さんは玉藻さんと言うのですか・・・って、作戦中に軍人の我々が民間人の指揮に従えと仰りますか!」
軍人にあるまじき命令を出した関中佐に対して、冬馬伍長は激しく噛みついた。いくら軍が上意下達組織とはいえ、これはそのまま受け入れる事は出来なかった。
「そうだ。玉藻様は宇迦之御魂神様よりダンジョン攻略を依頼された神の使徒様だからな。これは山寺中佐が確認した確定事項だ」
最後に投げ入れられた超特大の爆弾に、三人は話の前に念入りに確認された理由はこれかと気付いたのだった。




