第二百二十九話
お盆に入り、マスコミは撤退していった。軍の方から各社に対してお願いがされたらしく、一社残らず綺麗に居なくなってしまった。
関中佐曰く一部のお偉いさんの顔が真っ青になっていたとの事で、その人達は玉藻の依頼主を知っているのだろう。
陸軍上層部のお願いにより自由を得た俺達一家がやって来たのは、隣の市にあるお寺さんだ。お盆という事でお墓参りをしに来たのだが。
「優、舞。このお墓には父さんの両親と兄さんが眠っている」
「今まで来なかったのは、本家筋の連中が居たから?」
「ああ、優と舞を連れてきて奴等と鉢合わせしたら厄介だったからな。しかし今年からはその心配も無くなる。長く不義理をしてしまったよ」
周囲を清掃し、生花を花生けに挿す。お線香に火をつけて父さん、母さん、俺、舞の順に祈った。
桶と柄杓を水汲み場に返し、最寄りのバス停まで歩く。盗まれた車の代わりはまだ届いていないので、電車とバスを乗り継いで来たのだ。
「父さんの親族はアレとして、母さんの親族はどうなっているの?」
「母さんは瀬戸内の生まれだから遠くて交流が無いのよ」
母さんの親族は疎遠になってはいるものの、仲が悪いという訳でもない普通の人達らしい。ただ物理的に距離が遠いので関わっていないのだとか。
「母さんの家は理容店を営んでいてな、父さんの兄さんが経営していた理容店に修行に来たんだ。それで知り合ってな」
「義兄さんがいなかったらお父さんと結ばれなかったのよねぇ」
そのお店は父さんの兄が病死すると売却され、奥さんと二人の子供は実家を頼って引っ越して行ったそうだ。
「そりゃ、あの本家筋の連中と付き合うのは嫌だっただろうしなぁ」
「逃げられるなら逃げるのが正解よねぇ」
俺も舞も正月の事件を思い出してため息をついた。あの連中がいつ頃娑婆にでてこれるかは知らないが、二度と関わりたくないものである。
「実家が理容店で修行に来てたって事は、母さん理容師の資格持ってるの?」
「そうよ、ちゃんとした国家資格を持ってるのよ。だから優ちゃんと舞ちゃんの髪も母さんが切ってるでしょう?」
今世ではどうだか知らないけど、前世では母親が子供の髪を切るのはそう珍しく無い事だったから気にしてなかったな。
「だから玉藻ちゃんの髪を手入れするの凄く楽しみなのよ。長い髪はお手入れが大変だけどやり甲斐もあるから」
「尻尾のブラッシングは舞に任せてね!」
母さんは舞の髪を伸ばしたかったらしいけど、小学校の校則で髪の長さは肩までと決まっていたので伸ばせなかったという経緯があったそうだ。
舞のブラッシングは・・・期待に満ちた目で見られたら否とは言えないよなぁ。
「しかし、いくら距離が遠くて交流が無かったとしても正月の事件とか今回の事件で連絡は来なかったの?」
「それは大丈夫だったわ、だって連絡先教えていないもの。実家が知ってるのは義兄さんのお店の電話番号と住所だけだったから、お店が無くなって連絡出来ないと思うわよ」
「ちょっと母さん、それって絶対に関係拗れてるでしょ!一体何があったのさ!」
しれっととんでも無い事を暴露してくれたけど、何があって岡山から埼玉まで来る事になったのか。聞きたいような、怖いから聞きたくないような・・・




