第二百二十八話
軍と玉藻の話し合いも終わった。滝本家には平穏が戻りいつも通りの診療が始ま・・・らなかった。
「脅された時のお気持ちはどうでした?」
「通りかかった狐獣人に救われたそうですが、何をお話しましたか」
「御子息は軍属だそうですが、賊を制圧出来なかったのですか!」
今回の件の元凶達を逃すまいと県警と軍が力を入れて作戦を展開した結果、村長やギルド長、氾濫を起こした探索者は全員捕縛された。
追求はそれだけで終わらず、軍は村民全員に対して嘘を感知出来るスキル持ち同席の上で聴取を実行。村長に与していた者は全員逮捕された。山寺中佐も動員されたらしく、玉藻関連の仕事は関中佐が一人で熟す事になりそうとの事。
うちが盗まれた車は山中の谷底から発見された。探索者達は俺達が全員死んだ物と考え、車を投棄してお婆さんと島津親子に役場の人を脅して無かった事にしようとしたそうだ。
しかし俺達は謎の狐巫女に助けられ、犯罪の証拠となる動画データを警察と軍に提出した。車を盗んだ事に対して緊急避難が適用されるかどうかは知らないが、氾濫を起こした時点で終生ダンジョン労務刑が確定するので奴等の運命に変わりは無い。
当然ながら車に積まれていた荷物も使い物にならなくなっているので、ギルドから弁償される事となる。積んでいた医療機器の代わりを注文しているが、医療機器は頼んだら翌日配送なんて簡単には入手出来ない。
それが無くとも父さんはスキルで診断出来るのだが、診察して治療は出来ませんとは言えないしお盆が目の前だった事から医院の再開はお盆明けとなった。
出張は散々だったしノンビリしようと思っていたのだが、そうは問屋が卸さなかった。事件に巻き込まれた民間人を突き止めたマスコミが大挙して取材に訪れたのだ。
幸か不幸か医院は休診中なので患者さん達に迷惑がかかるのは避けられた。しかしご近所さんに迷惑となる事は避けられない。
警察に通報して解散させてもらうのだが、警官が去るとまた集まるというイタチごっことなってしまった。
「ここは静かだし、心が休まるなぁ」
「本当に良い所ですね。あ、玉藻ちゃん。ずんだ餅を作ったから一緒にお供えに行きましょう」
外出する事すらままならなくなった俺達一家は、誰にも干渉されない避難場所として迷い家に逃げ込んだという訳だ。
母さんがずんだ餅のお皿を持ち、俺と父さんも一緒にお社に向かう。舞はずっと尻尾をモフって上機嫌だ。よく尻尾をモフりながら歩ける物だと感心する。
お餅のお皿をお社の奉納して宇迦之御魂神様にお祈りを捧げる。こんなに便利なスキルを頂けた事、いくら感謝してもしきれない。
「お米とお野菜に川魚は心配いらないとして、調味料とお肉が尽きる前に何とかなって欲しいわね」
「詰めていても何の成果も無いとなれば居なくなると思うが・・・」
マスコミが視聴率を、スポンサーからの広告料を稼ぐ為なら人への迷惑など省みないのは前世も今世も変わらない。
「一応関中佐に現状は伝えてあるから、何とかしてくれるとは思う。それまで籠城するしかないな」
騒がしい外の世界を尻目に、俺達一家は迷い家でノンビリと日々を過ごすのであった。




