第二百二十六話
「山寺中佐、情報部所属の准尉相当軍属で滝本優と申します。以後宜しくお願い致します」
「滝本・・・君が噂の中学生軍属か。関が惚れ込んで引き入れたと聞いたが、まさか使徒様だったとは」
「山寺、知らなかったからな!優君が玉藻様だったなんて知らなかったからな!知ってたら准尉なんて階級じゃなく正式な佐官にするよう掛け合ってたわっ!」
山寺中佐の言葉に反応して復活した関中佐。この二人の掛け合い、ずっと見たい程面白いな。
「しかし優君も人が悪い。そうならそうと言って欲しかった・・・が、迷い家の事を考えると慎重にならざるを得ないか」
「ええ、ダンジョン探索のやり方を覆す迷い家は各国からすればどんな手段を使っても欲しいスキルです。任意の階層に数日留まってのレアドロップ狩りも楽になりますからね」
食料は持ち込み放題で新鮮な野菜も食べ放題。飲料水も無限でトイレやお風呂もありどこでも安全に睡眠を取る事も可能。
得たレアドロップを持ち帰るのも運ぶ労力がかからないので質量を考えずに取り放題。ダンジョン深部のレアドロップ集めが加速すれば、帝国の技術は他国を大きく引き離すだろう。
「そんなスキルを授かったなら、下手に正体を言えないのも道理か」
「はっ、だから優君は家族の保護を求めて軍に入る事を切望していたのか!」
「そうです。玉藻の正体がバレた場合、その力を得るために家族を人質にされるのはあり得る事です。なので他国の間者から家族を守れる組織・・・帝国軍への入隊を望みました」
玉藻の力でダンジョン攻略を進めたい。だが、それで家族が犠牲になるのは我慢が出来ない。ダンジョン攻略と家族の安全、それを両立させる為の手段が軍への入隊だった。
「これは玉藻様に組んで貰うパーティーは厳選する必要があるな」
「ああ、プライドが高くてトラブル起こす奴らは論外だな」
能力の高さを嵩に着て自尊心が高くなっている者は嫉妬から想像外の行動を起こす可能性がある。自己顕示欲が高い者は自慢話から情報を漏らす恐れがある。そう考えると玉藻と組む人間は能力が高いトップ層を避けた方が良いのかもしれない。
「誰か入ってきたらマズいので玉藻に変わります。情報部内にどこまで知らせるかは関中佐に一任する故、後に確認するとしようぞ」
「口調を変えてるのは正体を探られない為か。これは言われなければ同一人物とはとても思えないな」
正体がバレた場合、類は家族にも及ぶのです。そうならないようにやれる事はやっておりますよ。
「それでは玉藻様、専用のスマホは御用意が出来次第御連絡致します」
「手数をかけるのぅ。関中佐、滝本優の時はこれまでと同じ対応で頼むぞえ」
「はっ、畏まりました」
顔を強張らせながら承諾する関中佐。これまで俺に対して丁寧に対応してくれたが、使徒と知って同じ対応をするのは難しいだろう。
それでも部下の筈の俺に上位者に対する対応をするのは不自然極まりないので、頑張ってこれまで通りに対応してほしい。
「本日は御足労頂きありがとうございました」
「今後とも宜しくお願いいたします」
正門前まで見送ってくれた二人に軽く礼をして空歩で上空に上がる。話し込んだ為周囲は薄暗くなっていて、高度を上げれば地上から発見される可能性は低いだろう。
昼食を食べていなかったのでお腹が減ったが、ここで間食をしては母さんの夕ご飯が入らなくなる。我慢して家まで走る事にしよう。




