第二百十八話
朝起きると舞が俺の胸元に顔を埋めた状態になっていた。偶然なのか故意になのか、浴衣がはだけて露わになった谷間に挟まる形になっていた。
「優ちゃんおはよう、舞ちゃん気持ち良さそうね。お母さんもやろうかしら」
「凄く柔らかくて気持ち良いよ。一回やったら止められなくなるの」
寝ていると思っていた舞は起きていたようだ。そして谷間に顔が挟まった状態で喋っているので素肌に息がかかって擽ったい。
「舞、起きているなら離れなさい」
「やだ、あと三千六百秒」
更に一時間もこのままで居るつもりか。瞬時に計算しにくい秒で表現する辺りに誤魔化して少しでも長くこのままで居ようとする意志を感じる。
「舞ちゃん、もうすぐ朝ご飯だから続きは食べ終わってからにしなさい。それと、お母さんにも代わってね」
「うん、わかった!」
母さんに諭され元気よく返事をする舞。俺はどこから突っ込めば良いのだろうか。
この日、俺達一家は温泉に浸かってノンビリと過ごしたのだが世間の動きは目まぐるしかった。
まず、医師会から父さんに連絡が来た。医療機器を奪われた事、診察は出来るが身の安全を保証出来ない事から往診依頼は相手に問題有りとして破棄される事となった。
この時点で俺達は帰っても問題無くなったのだが、旅館には今晩も宿泊すると通達していた。連絡が来たのがチェックアウトの時間以後だったので仕方ない。
そして軍部。下部組織の愚行で医師会に負い目を負う形となった軍首脳の怒りは元凶である水中村ギルドと村長に向かった。
まずは輸送機二機を使って戦闘スキル持ちのパーティーを奥利根や土合方面に行く道に降下させ、村から誰も逃げ出せないよう封鎖した。同時にもう一機の輸送機を飛ばし国鉄の駅にも降下させ、鉄道を使った脱出も防いだ。
この世界、戦闘機や爆撃機は存在しないが人員や物資の輸送手段としての航空機は研究・開発が行われている。と言っても大氾濫を逸早く制圧し技術も進んでいた日本と英国のみなのだが。
そして高速道路を使って到着した陸軍車両がそのままインターチェンジを封鎖。沼田から水中村に至る一般道を使い別の陸軍部隊と群馬県警機動隊が進撃した。
陸軍部隊は二手に分かれギルドと村役場を制圧。機動隊は村の警察署を包囲し指示に従うよう呼びかけた。
いきなり機動隊に囲まれた警察署は混乱し、一部には抗戦する動きも見えたが役場とギルドを制圧した陸軍部隊も合流。流石に勝ち目はないと悟り機動隊の管理下に収まった。
ギルドと警察、役所の人間は嘘を見抜くスキル持ち立ち合いで聴取がおこなわれ、村長に与した者は捕縛された。
ただ外の人間を排斥しただけならば地方自治体の方針なので良し悪しは別として罰する事は出来ないのだが、氾濫を通報しなかったのが致命的だった。
ギルドは村長の命令で通報しなかった事が録音という証拠付きで判明している。これはどう足掻いてもひっくり返す事は出来ない。
そして今回は偶々玉藻がレイスを討った事で実害を免れたが、もしレイスがそのまま放たれていたらどれだけの被害が発生した事か。
こんな山中で逃げ出したレイスの行方を追うなんて無理ゲーにも程がある。五体のレイスを捕捉し倒すのにどれだけの人員と予算と時間を必要としただろうか。
そんな理由で村長とその一派には国家反逆罪が適用される事となった。村長に与した人達はここまで大事になるとは思わなかっただろうけど、担いだ神輿が最悪だったと諦めて貰うしかない。




