第二百十七話
通された部屋で浴衣に着替え寛ぐ。隣に座った舞が頭を俺の肩に乗せてきたので撫でておく。
「ねえ、お兄ちゃん。お兄ちゃんはあんなモンスターを相手にして怖くないの?」
「全く怖くない、と言えば嘘になるかな。でもね、いつも相手にするのはダンジョン内のモンスターだから・・・」
ダンジョンから外に出たモンスターはダンジョンから出る前と大きい違いがある。
「ダンジョンはね、元々は訓練用に造られた施設なんだ。だから相手を殺そうという意思は薄い。だけど、ダンジョンから出たモンスターはその設定が外れるんだ」
これはダンジョンを作った天才も想定していなかった事態だろう。ダンジョンを造った世界では氾濫なんて起きなかったのだから。
「優、訓練用とはどういう事なんだ?そんな話は聞いた事がない」
「これは素戔嗚尊様からお聞きしたんだ。ダンジョンは他の世界で造られた訓練用施設だった。しかし持て余したので他の世界、つまりこの世界に投棄されたんだよ」
両親と舞が形容し難い顔で俺を凝視しているのだが。何か変な事を言っただろうか。
「優ちゃん、聞き間違いでなかったら優ちゃんが素戔嗚尊様にお会いしてお言葉を賜ったように聞こえたのだけど?」
「そうだよ、大宮の氷川神社は素戔嗚尊様が祭神だからね。修学旅行が京都だったから宇迦之御魂神様にも会えて助かったよ」
普通の中学生が関東から京都に行く機会なんて早々無いからね。絶妙なタイミングで修学旅行があったのは本当に幸運だった。
「お父さん、神様ってお会いできる存在でしたっけ?」
「母さん、普通は無理だと思うぞ。全く、我が息子ながら規格外にも程があるだろう」
人間では神域に立ち入れないから、現状神様にお会い出来るのは世界中で俺だけだろうね。この先も俺以外で神様に会える者が生まれる確率は限りなくゼロに近いだろう。
「俺はダンジョンを攻略するよう神様に依頼されて生まれたんだ。本来流れる筈の双子の卵を使ってね」
「・・・どう考えても不自然だったあの現象は、神様による物だったと?」
「生まれなかった双子の器に加えて俺の魂の器、三人分の器が無ければ妖狐化は付与出来なかったそうだ」
それだけの容量が無いと付与出来ないぶっ壊れスキルな訳だ。相応の、いや、期待された以上の成果を出さねば男が廃るというもの。
「玉藻さんは女の子だけどね」
「舞さんや、しれっと俺の心を読まないで貰えますかね?」
舞よ、実はもう読心術というスキルを貰っているのでは?
「優ちゃんは考えてる事が分かりやすいから」
「手に取るように分かるわよね」
我が家の女性陣は母娘揃って容赦という物がありません。もう少しこう、オブラートに包むという事をして欲しいなぁ・・・
「ちょっとした事なんかはすぐに表情に出るからなぁ。そこが微笑ましいのだが」
「父さんも容赦無かった・・・」
この件に関しては俺に味方は存在しないようだ。俺、グレても良いかな?
「お客様、お食事の支度が整いましたがお運びしてもよろしいでしょうか?」
「あっ、はい。お願いしますね」
外から仲居さんの声がかかり、夕食が運ばれてきた。いつの間にやら結構な時間が経っていたようだ。
川魚や山菜を使った美味しい料理を堪能し、大浴場で温泉に浸かった。ここには家族風呂が付いてなかったので母さん達との混浴は免れる事が出来た。
「お兄ちゃん、また尻尾をモフりながら寝ても良い?」
「舞、ここだと旅館の人が来るかもしれない。我慢しなさい」
舞の要望に対して俺が答える前に父さんがダメ出しをした。妥協案として女性体を発動して一緒に寝る事に。何故こうなった?




