第二百十五話
報告するべき内容はまだまだ有るので話を続ける。本来は年長の父さんがするべきだが、今回は軍属という立場を利用するので俺が担当している。
「この後レイスに襲われましたが、たまたま付近にいた狐巫女、玉藻さんに助けられました。その後彼女に守られ山を越えて沼田署に助けを求めた次第です」
「関中佐殿、私は沼田署の石田です。われわれ警察にも氾濫の報告は入っていません。今後の対策を協議したいと思います」
ここに来る前に関中佐に連絡を取らなかったのは、警察で一緒に説明すれば手間が省けるのと軍と警察で連携を取りやすいと思ったからだ。その思惑は上手く行きそうだが、まだ伝えなければならない事がある。
「その前に玉藻さんから預かった録音データがあります。それをお聞き下さい」
前置きをしてからギルドで録った内容を再生していく。これでギルドが村長の指揮下にある事、外に出たレイスは全て退治した事、他のモンスターは阻止できていて猶予がある事が伝わった筈だ。
「我々が地元警察ではなく沼田まで歩いて助けを求めた理由はこれです。ギルドが軍ではなく村長の意向で動いている以上、警察もそうではないとは断定出来ませんから」
もしも警察も村長の指揮下で動くとしたら、助けを求めに行ったら拘束されて余計な事を知ったとして葬られる可能性もある。
「中佐殿、これは所轄でどうこう出来る範囲を越えています。県警に報告し指示を仰ぎたいと思います」
「お願いします。軍としては榛東の相馬原基地から部隊を出します。後はうちの上とそちらの上での協議次第となるでしょう」
隔離されている筈のモンスターを退治する必要があるし、水中村の警察が村長の指揮下で対立した場合戦力が必要となる。どの道軍は必要なので警察も断らないだろう。
これで知っている情報は全て警察と軍に伝えたので俺達の役目は終了となる。後の対処は警察と軍のお偉いさん方か協議してやってくれる。
「重大な情報の提供、ありがとうございました。まさかすぐ近くのダンジョンで氾濫が起きた上に報告がされていないとは・・・」
その後、俺達一家は別室に案内されて強盗殺人未遂の被害届を出す為に調書作りを行った。担当の警察官さんは事前に俺が軍属だと聞いていたのか、かなり丁寧に対応してくれた。
因みに、罪状に殺人未遂が付いているのはレイスを擦り付けられたからである。これがダンジョンで探索者同士の擦り付けだった場合、殺人未遂が適用されるかどうかは状況により異なる。
しかし今回はこちらが四人中三人が一般人である事。襲わせて時間稼ぎに利用すると明言している事。レイスは魔法スキル持ちでないと対応出来ない事で殺す意思が明白だと判断された。
最後に録音データを証拠としてコピーし提供した。ついでに情報部にも送って貰えるよう要請した。
全てが終わった時にはお昼を過ぎていたので、遅い昼食をとる為に近くの食堂に入った。えだまめメンチという地元の名物を食べてみたが、結構美味しかった。一瞬、前世世界からずんだの妖精が来て作ったメニューかと思ったのは内緒だ。
「母さん、優、舞。父さんの出張で酷い目にあわせてしまったな、すまない」
「お父さん、お父さんは全然悪くないわよ。それに私達が居なかったら冴子ちゃんがどうなっていたか・・・」
舞が言う通り、俺達がお婆さんの所に行かなければ役所の担当さんも行かなかったのであの親子とお婆さんが氾濫を知る術は無かった。
そして車を得られなかった探索者達はレイスの餌食になっていた可能性が高い。その後お婆さんと親子が無事に済むかどうか。
たまたま俺達一家が早くに着いた事で複数の人達の運命が変わった。これは偶然なのか運命なのか。その疑問に答えられる者は存在しないのだった。
 




