第二百十四話
翌朝、オークの生姜焼きで朝食をとり空歩で沼田に向かう。市街地から然程遠くなく人がいない場所を探して降り、両親と舞に迷い家から出てもらった。
「あれは・・・沼田の市街か。本当にとんでもない能力だな」
「有用だけど、有用過ぎるから扱いに細心の注意が必要なんだよなぁ」
着せ替え人形だけでも他国の間者に目を付けられたのだ。こんな能力が知れたら取り合いにならない筈がない。
スマホで警察署の場所を調べて歩く。タクシーがいれば乗りたかったのだが捕まらなかったので仕方ない。
幸い三十分も歩かずに到着した。玄関を守る警察官さんを横目に入り、近くにいたお巡りさんに話しかける。
「すいません、日本帝国陸軍情報部所属准尉相当軍属の滝本優と申します。できるだけ上の責任者の方にお会いしたいのですが」
「えっ、情報部?准尉?しょ、少々お待ち下さい!」
見た目は普通の家族連れ。その中の一人が軍属な上に所属が情報部だなんて想像だに出来なかっただろう。お巡りさんは近くの電話器に飛びついて内線で何やら話している。
「准尉殿、ご案内致します」
「お願いします」
お巡りさんの後をついて廊下を歩く。階段を上がって通された部屋の扉には署長室と書かれたプレートが掛かっていた。
「沼田へようこそ、私が署長の石田です。どうぞおかけ下さい」
署長さんに促され応接セットのソファに座る。すぐに婦警さんが人数分のお茶を持ってきてくれた。
「いきなり本題に入らせて頂きたいのですが、第1999ダンジョンにて氾濫が起きたのはご存知でしょうか?」
「1999と言うと水中ですな。あそこが氾濫を起こしたなどという話は聞いておりませんぞ」
やはり報告はされていないようだ。となると軍の方にも連絡されていない可能性が高いな。
「そうですか。今ここで情報部にも確認を取りたいのですがよろしいでしょうか?」
「もちろん構いません。こちらをお使い下さい」
署長さんが備え付けの電話を使わせてくれたので、スマホの電話帳を見ながら情報部の番号にかける。前世で携帯が普及する前はあちこちの電話番号を覚えていたものだが、携帯を使うようになって覚えなくなってしまった。
「もしもし、滝本です。関中佐はいますか?」
「おお、滝本君。すぐに替わるよ。バナナチップス美味しかったよ」
この通話、家族や署長さんも聞こえるようにスピーカーで行っている。なので署長さんに怪訝そうな表情で見られてしまったが気にしないでほしい。
「優君どうしたんだ、今日はお父さんの出張について行ってるのだろう」
「ええ、残念ながら出先でトラブルが起きまして。1999ダンジョンで氾濫が起きたとの報告は入っていますか?」
「氾濫だと?そんな報告はどこからも受けていない。それは本当なのか?」
予想した通り軍にも報告それていなかった。なので順を追って説明する。
「父さんの往診先で役場の人に氾濫が起きたと役場から連絡が入りました。その為往診先から避難しようとしたのですが、途中で地元の探索者に車を奪われました。これがその時の会話です」
俺はスマホを取り出して録音しておいた内容を流した。キッチリと一般人を囮にする為置き去りにするという発言も録れていた。
あまりの内容に署長さんの顔は怒りで真っ赤になっている。多分電話の向こうの関中佐も同じだろう。でも、これはまだ序の口なんだよなぁ。
気分転換に短編を一本書きました。




