第二百十三話
一旦高度を上げて村の位置を確認する。然程離れていないが人が来そうにない山中で迷い家に入る。
「持たせてすまぬな。予想外の事態となっておった故」
「優ちゃん、その話し方違和感が凄いから戻せない?」
帰って早々に母さんから話し方に対する注文を付けられてしまった。ここには家族以外は居ないし大丈夫といえば大丈夫なのだが。
「じゃあ口調は変えるよ。ギルドまで行ってきたけど、ちょっと不味い事になってる」
口調を優の話し方にしてギルドで知った事を話す。氾濫を軍に報告していないという事にかなり驚かれた。
「確か、封鎖の為に非常ボタンを押したら自動で軍の情報部に繋がる筈じゃなかったか?」
「何故か非常ボタンを使わずに隔壁だけが降ろされたみたい。だから軍にも警察にも連絡されてない」
唯一連絡が行っているのが村長という訳の分からなさ。そりゃ地方自治体の長だから連絡は必要だけど、軍や警察が先だろうに。
「余所者の排斥を是とする一派が村の実権を握っているし、公的機関に勤める余所者も村長に従っている人が居る。敵味方の区別がつかない以上、村に戻るのも危ないと思う」
「それには同意するが、車も盗まれたしそんな状態じゃ駅も使えないだろう。どうすれば・・・」
「それは心配ないよ。迷い家は俺が居る位置に出入り口が開く。このまま俺だけ外に出て家に帰り迷い家を開けば、父さん達はここで休んでいても家に帰れるから」
これが迷い家の恐ろしい所だ。迷い家に複数のパーティーを入れてダンジョンに潜れば、消耗させる事なく二十階層に連れて行く事も可能だ。
その後俺と共に潜っていき、消耗したら別のパーティーと交代する。これを繰り返せば万全に近い状態のパーティーで進撃を続ける事ができる。レアドロップ集めも異次元の効率で行えるだろう。
「でも、それをやると怪しまれる。この能力を知った国がどう動くか想像もつかない。だから時間をおいて沼田に行こうかと思う」
玉藻に助けられた俺達家族は、玉藻に守られて山中を歩いて移動し沼田まで送って貰ったという筋書きだ。
村に帰らなかった理由は村人が信用出来ないからと説明すれば良い。録音してある探索者との会話を証拠とすれば誰でも納得してくれるだろう。
玉藻が録った音声でギルドも村長の命令下にあると証明出来るから、警察も信用出来るか分からなかったと言えば疑われないだろう。
「その後は警察や軍の指示に従う。氾濫が報告されているかどうかで動きは変わるだろうね」
取り調べを受けるのは避けられないから、レイスに襲われた所を玉藻に救われた事。見つかりにくい場所に隠れているように指示され、一度離れ戻ってきた玉藻に守られて山中を抜けここに着いたと証言すると口裏を合わせた。
「今回は優ちゃんに頼りきりね。そろそろご飯にしましょう」
母さんは待っている間に夕食の支度をしていてくれたみたいだ。迷い家産のお米と玉ねぎに突撃牛のお肉を使った牛丼はとても美味しかった。
その後順番にお風呂に入り客間の押し入れに収納されていた客用の浴衣に着替えてもらった。
「お姉ちゃん、寝る前に一つお願いしても良い?」
「舞のお願いなら、お兄ちゃんは何でも聞いちゃうぞ」
可愛い妹のお願いを断るという選択肢は俺には存在しないのだ。
「尻尾、触らせて貰っていいかな?」
「そう言えばモフりたいって言ってたな・・・」
当然断る筈もなく、舞は俺の尻尾に抱きついたまま眠りについたのであった。




