第二百十一話
迷い家を出て初めにやったのは魔石の回収だ。監視カメラを確認すれば外に出たレイスの数は把握出来るし、魔石で倒した数を確認する事により倒せていないレイスの数を把握出来る。
まず知りたいのは氾濫の情報だ。レイスは何体外に出たのか、他のモンスターはどれだけ外に出たのか。ギルドや軍の対応はどうなっているのか。
一番早いのは関中佐に聞くことなのだが、玉藻のまま電話する訳にもいかない。優に戻れば良いのだが、迷い家に人が居る状況で玉藻から優に戻るとどうなるのかが分からない。
検証出来れば良かったのだが、迷い家を知られたくなかったのでそれも出来なかった。今が検証のチャンスと言えばチャンスだが、両親や舞に何かあったら嫌なのでやるつもりは無い。
スマホでネットをチェックするという手も使えない。うちがこの村に来ている事を情報部に報告している。なので氾濫を知った時点で俺に連絡を取ろうとしているだろう。
今はスマホを迷い家に置いてきたので電波が通じない状況になっている。しかしネットを見る為に迷い家から出したら情報部からの着信が入るだろう。
電波が通じていなければ通話できない言い訳になるが、電波が通じていたら何故電話に出ないのかという話になる。
俺としては関中佐に玉藻の正体をバラす事は吝かではないが、他の部員さんとなると話は別だ。中佐の部下だから信用出来るとは思うが、直接話したのは八奈見大尉しか居ないのだ。
取り敢えず空歩でレイスがやって来た方向に向かう。担当さんは山一つ越えた先にダンジョンがあると言っていた。多分レイスが来た方向の山を越えればギルドがあるだろう。
おれの予想は当たっていた。山を越えた先にコンクリートの大きな建物が建っている。大きな駐車場も併設されていて、不特定多数の人が訪れる施設だと思われる。
「あれがギルドだと思うのじゃが、静か過ぎるのぅ」
氾濫が起きたのなら周囲はギルド職員や探索者、警察や軍の人間で騒々しくなっている筈だ。しかしギルドらしき建物の周囲には人影を確認する事が出来なかった。
「軍は駐屯地が遠い故に到着していないかもしれんが、警察すら来ていないのは不自然じゃ」
探索者は屋内でモンスターと戦っているので外には居ないのかもしれない。だが警察が到着していればパトカーが駐車場に停まっている筈だ。
警戒しながら建物の玄関前に着地する。ギルドに間違いない筈だが、氾濫を起こしたギルドとは思えない静かさだ。
「早く軍に連絡するべきです!」
「村長からの指示は外に知られる前に解決しろ、だ。自分達で外に知らせてどうするんだ!」
中に入ると大声で言い争う声が聞こえてきた。ちょっと待て、氾濫が起きたのを軍に通報していないのか!これは録音しておいた方が良いだろう。
「誰だっ・・・獣人だとっ?」
「近くでレイスを倒したでな。氾濫でも起きたかと最寄りのギルドに来てみたのじゃが・・・」
自動ドアが開く音で俺が入ってきた事を知り、中にいた人間全員が俺を見る。全員が希少な獣人の登場に驚いている。
「狐耳に巫女装束・・・板橋の件で活躍した獣人さんですよね、助かった!」
「今このダンジョンでは氾濫が起きています。数体のレイス以外は隔壁で閉じ込められましたが、ここには戦闘出来る者が居ないので対処出来ないのです!」
「ええい、勝手な事を言うな!ここのギルド長は俺だぞ!」
ギルドの職員さんと思われる人達が叫び、自称ギルド長がそれを戒める。こいつ軍への報告に反対していたが、どう始末をつけるつもりなのだろう?




