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第二百五話

 道は段々と細くなっていき、普通車がギリギリすれ違う事が出来る程度になっていた。整備も甘くなっているようで、所々に設置されているガードレールは錆びている物が多かった。


「この道の先には幾つかの集落がありますが、行き止まりとなります。また、集落もほぼ放棄されていて住んでいるのは訳ありのご老人だけです」


 消えるのがほぼ確実な道なので修繕の為の予算を回されていないのだろう。今時の若い人が不便な山中に住みたいとは思わないだろうし、集落が無人となるのは避けられないと思われる。


「そこの道を上がってください。突き当たりの家が目的地です」


 山に上っていく脇道を指定され更に細くなった道を上る。もう車がすれ違う事も出来ない細さなので、対向車が来たらすれ違える場所までどちらかがバックする必要がある。


 時折退避スペースがある道を上り続ける事二十分。何軒かの廃屋を通り過ぎ目的の家に辿り着いた。


「あそこですか。車が停まってますね」


「ここに住んでるお婆さんの子や孫は村を出て行ってしまったので、村民が世話をしに来る事があります。その車でしょう」


 庭に停まっていた軽自動車の隣に車を停めて外に出た。標高が高いだけあって夏だと言うのにかなり涼しい。


「凄い、空気が澄んでるって感じがするねお兄ちゃん」


「これだけ木々に囲まれてるのだから、空気が綺麗なんだろうな」


 担当さんに続いて両親が母屋に向かう。俺と舞も慌てて追いかけた。


「佐々木さん、お医者さん連れてきたよ」


「あら、お医者さんの診察は明日からじゃなかったの?」


 担当さんが玄関を開けながら声をかけた。それに反応して廊下の奥からまだ三十代と思われる女性が姿を現した。


「あっ、あの人って・・・」


「冴子ちゃんのお母さんだな」


 パタパタと走ってきたのは去年ひょんな事で知り合った女の子の冴子ちゃんのお母さんだった。


「先生が早くに到着されてな、時間があるというので往診してくれる事になったんだ」


「それはそれは。先生、昨年はお世話になりました。佐々木さんは奥におります、どうぞ」


 冴子ちゃんのお母さんに先導されて奥へと進む。障子で隔てられた八畳の間に入ると布団に寝ているお婆さんとその横に座る女児がいた。


「あっ、舞お姉ちゃんだ。今年も来てくれた!」


「冴子ちゃんに会いに来たよ」


 布団を回り込んで舞に抱きつく冴子ちゃん。舞は優しく抱きとめて頭を撫でてあげている。


「おお、去年来なさったというお医者様かね。何でも手に触るだけで病気が分かりなさるとか」


「滝本と申します。お手に触れてもよろしいですか?」


 お婆さんは布団から左手を出して父さんに向ける。父さんは両手でその手を包み込み目を閉じた。


「お年のせいで筋肉は弱くなっていますが、病気の心配は無いようです」


 お婆さんは弱って歩けないものの病気という訳ではないみたいだ。自分で動けないのでは誰もいない山中ではなく人が居る場所で生活した方が安心なのだが。


 お婆さんもそれは分かっているだろう。それでもこの家から離れない理由があるのだろうと思う。それに口を出す権利は俺達には無いのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 終の棲家で生を終えたいという願いは、出来れば叶えてあげたいものですよね 効率が第一な現代だと難しいところですが 人も社会も、もっと余裕があると良いのに
[一言] マクロの政策とミクロの政策は違いますからねぇ
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