第二百話
見渡す限りの荒野を歩く。先頭に大盾を持った俺が歩き、直後にリュックを背負った久川上等兵が続く。その左右を冬馬伍長と井上上等兵が挟むように歩いていた。
「やはり大盾の防御は安心感が違うな」
「それが売りですから」
上空を旋回する火鷹から放たれた火球を大盾で防ぐと、冬馬伍長が染み染みと呟いた。普段はバックラーで冬馬伍長が弾いているそうだ。
「でも、大盾は持ち歩くだけで体力を消耗するから私達では無理ですね」
「それさえ何とかなるなら使いたいわ」
それはかなりの探索者が陥る問題だと思う。でも、それを解決してしまうのが着せ替え人形と迷い家さんなんだよなぁ。
「私の着せ替え人形にセットすれば持ち歩く労力が無いので解決しますよ」
「なっ、そんな使い方が・・・おっと、危ない危ない」
着せ替え人形の使い方に食いついた冬馬伍長だったが、よりによってそのタイミングで痺れを切らした火鷹が降下してきた。冬馬伍長はそれを逃さず火鷹の翼を切り、落ちた火鷹にトドメを刺した。
「着せ替え人形は男女で二体づつ、合計四体出す事が出来ます。今は女性の素の状態と着せ替え人形に装備をさせているので、男性の素の状態と着せ替え人形二体が空いている事になりますね」
「優ちゃん、スキル授与の時にスカウトされなかったよね?担当者の目が節穴だったの?」
「スキル名がこれですから。まさか有用なスキルとは思わなかったでしょう。あ、また来ましたね」
話している間に次の火鷹がやって来て火球を撃ってきた。井上上等兵が狙われていたので大盾で防ぐ。
「十三階層への渦に着いてしまったな。あれが鬱陶しいが昼食にしようか」
伍長の判断で昼食を取る事に。と言ってもカロリーバーを水で流し込むだけなので味も風情もあった物ではない。しかも火球が降ってくるのを警戒しながらだ。
それでも素早いコボルドが襲ってくる階層で食べるよりマシという判断である。食事を終え急降下攻撃を仕掛けてきた火鷹を葬ると十三階層へ行く渦に飛び込んだ。
「危なげないですね」
「私達も良い所を見せないとね」
コボルドを見事な連携で葬る冬馬伍長と井上上等兵。素早く狡猾な相手だが二人は左右から交互に攻撃して完封してしまった。
「オークや突撃牛はパワーが強くて体力もあるから、盾役も打撃担当もいないと苦戦しやすいんです」
「帰りも考えると私達では十四階層が精一杯。それが限界です」
井上上等兵と久川上等兵が悔しそうに話す。もう少し先のモンスターを倒す事が出来るのに先に進めない。そんな悔しさが滲み出ていた。
二匹目以降のコボルドも二人が倒していった。俺も双剣装備で参加しようかと思ったが、加わっても倒すまでの時間は然程変わらないだろうし、二人のコンビネーションに水を差し逆効果になると判断した。
そして十四階層に降りる渦へと辿り着いた。降りると決めてはいるが、跳び百足と交戦するかで少し揉めてしまった。
「優ちゃんの大盾が加われば前より楽に倒せます。一回試すべきです!」
「そうかもしれないけど、最初からそこまでやる必要がある?次に試せば良いでしょう」
積極策を主張する久川上等兵に対して慎重策を主張する井上上等兵。冬馬伍長は二人の言い合いを黙って聞いている。
俺としてはどちらでも構わないので冬馬伍長と同じで静観している。果たして冬馬伍長はどちらを選択するだろうか。
 




