第二十話
家に帰ると診察時間も終わり舞も学校から帰宅していた。母さんに土産の豚肉を渡す。ダンジョンでドロップする肉類は透明なシートのような物に包まれていて、人が素手や刃物で開けようとしない限りその状態を保ち劣化しない。
「優ちゃん、ダンジョンに入って来たのね」
「カードの発行がすぐだったから、少し覗いて来た。突撃豚は楽勝だったよ」
既に夕食の仕込みは終わっていたので、この肉は明日の夕食になる。豚カツは好物なのでとても楽しみだ。
夕食の席で学校での話を改めて話す。父さんと舞に自分の言葉で伝えた方が良いと思ったのだ。父さんも舞もかなり怒っていた。
「失礼な話よね。お父さん、これは抗議するべきじゃない?」
「そうだな。連休明けになるが追及しないとな」
「患者さん達も優ちゃんの話を聞いて私も補足したから、学校と教育委員会は大変な事になりそうよ」
ママ友達のネットワークを軽んじてはいけない。一つ一つのサークルはそう大きくなくとも、連鎖して情報を伝えていくので拡散の範囲は途轍もなく広い。
そして、それぞれの家庭で夫に協力(夫に拒否権があるかを詮索してはいけない)を願った場合、どんな影響が出る事やら。
「まあ、うちから抗議するのは確定として優は結果が出るまで休むつもりだろう。それならば女性体での精密検査を受けておくか」
「そうだね、検査も早めに受けた方が良さそうだし。どこで受けるかは父さんに任せるよ」
性別が変わるスキルは前例があり完全に変化していたとデータが残っているらしいけど、俺の場合元に戻れるので前例と同じかは分からない。もしも何かの特異点があった場合を考えて、信用のおける医療機関を選びたい。
連休明けの行動も決まり、夕食を終えて部屋に戻る。売らずに取っておいた初めて倒した突撃豚の魔石を机の上に飾り椅子に座る。
「差し当たって必要なのは、頑丈な靴と篭手か」
今日は突進してきた豚を転ばせて踵落としでトドメという戦い方をしたわけだが、踵落としの威力に負けて靴が破損するというアクシデントに見舞われたのだ。
幸い着せ替え人形の自動修復機能で修復出来たので、帰りは裸足なんて間抜けな事態は避けられた。着せ替え人形、本当に重宝するスキルである。
翌日、俺は一人でショッピングモールへと買い物に出掛けた。母さんはママ友の会合、舞は友達と約束していたらしい。
探索者向けの商品を売る店を周る。そんなに予算は潤沢ではないので、鉄板が仕込まれた安全靴のような物と肘から先を守る鉄製の篭手を購入。安い量産品ではあるが万単位の金が口座から消えた。
探索者は儲かる職でもあるが出費も激しい職だ。戦っていれば武器も防具も損耗し、買い替えが必要となる。その点、俺は着せ替え人形で修復されるのでその心配がない。
一見非戦闘系でダンジョン攻略に不必要に見えるが、これはかなり有用なスキルだ。前世世界の女神に転生者の依頼を出したこの世界の神様は、そこまで読んで付けてくれたのだろうか。




