第百九十八話
「試しに使ってみますか?」
「お願いします!」
こういった特殊な効果が付与された武器は中々発見されない上、市場に出ても軍の予算では殆ど買えないらしい。
運良く買えたり宝箱から軍人が発見した場合は精鋭部隊に優先して配備されるので一般兵に回ってくる事は無いとのこと。
「本当に伸びるのね・・・って重い!」
初めに試した戸田伍長は柄を長く伸ばし過ぎて重さに耐えきれず落としてしまった。俺は柄を持って短くし藤田軍曹に渡す。
「長くなった分だけ重くなりますから、長くし過ぎるととんでもない重さになります」
「それじゃあ扱うのにかなりの力が必要ね。使いにくいのでは?」
「身体強化のスキルでも無いと難しいと思います。それで買い叩かれようとしていたのを買い取れました」
数回柄を伸び縮みさせた藤田軍曹は俺の答えに納得したようで坂本伍長に斧槍を渡す。伍長も数回伸縮させると冬馬伍長に手渡した。
「でも、貴女は身体強化を持っていない筈よね。よく扱えるわね」
「私は生まれつき特殊体質で、筋繊維が太くならずに密度が高くなるのです。なので外見より力がありますから」
坂本伍長に答えている間に斧槍は冬馬伍長から井上上等兵へ、そして久川上等兵へと渡って帰ってきた。
「だから片手半剣を双剣として使うなんて離れ業が出来るのね」
一通り武器のお披露目も終わったので先を急ぐ事にした。七階層のゴブリンは斧槍で近くに来る前に撃破した。
八階層の迷い猫は見た目と特殊能力が無ければただの子猫だ。プロの軍人がにゃんこに惑わされたりはしない。
そしてベースを設営する九階層に到着した。十階層に行く渦の近くでキャンプを設置する。戸田伍長が背負っていたリュックから五人用のテントが二つ出され手際よく組み立てられた。
「それでは我々はこちらのテントを使うからそちらを使ってくれ。まだ夕食には早いな。滝本さん、預かっている菓子を出しても良いかな?」
「構いません。また作れますから今回の探索で全て消費しましょう」
女性は甘い物に目がないというのは軍人さんでも同じようだ。一斉に荷物を管理している戸田伍長に群がった。
「ああ、まさかダンジョンで甘い物を食べられるとは思わなかったわ」
「持ち込める重量が厳しいから嗜好品なんて御法度だもんねぇ・・・」
「滝本さん、うちのパーティーに入らない?喜んでリーダーの座を渡すわよ」
冬馬パーティーに割り当てられたテントの中で干芋とバナナチップスを味わうように食べる三人。発言が冗談に聞こえないのだが。
「どのパーティーに入るかは関中佐の命令次第ですから」
軍属の身で入るパーティーを選ぶなんて出来ないだろう。しかし冬馬伍長、正式な軍人とは言えない軍属にリーダー任せるって良いのか?
階級的には伍長より准尉の方が上だけど、軍属で正式な命令権が無いから問題ありまくりな筈なのだが。
その後レーションで夕食を取り早めに就寝する。哨戒は藤田パーティーが受け持つので俺達は明日に備えて心身共に万全な状態にするよう心掛ける。
風呂に入れず寝袋で就寝する。これは思ったよりも心身に疲れを残した。これではダンジョン攻略も中々進まないなと納得させられたのだった。




