第百九十七話
ダンジョンに入ると藤田軍曹と坂本伍長が周囲を警戒する。戸田伍長は大きなリュックを背負っているので戦闘には加わらないようだ。
「ではスキルを使います」
一応断ってから女性体のスキルを発動する。初期状態は大盾装備になっている。突撃豚には丁度良い。
「服や装備まで一瞬で変わるとは。知らされてはいたが実際に見ると驚くな」
「これは着せ替え人形の効果です。かなり重宝してますよ」
藤田軍曹の呟きに律儀に答える。戸田伍長と坂本伍長も俺をガン見してるけど、警戒しなくて良いのだろうか。
「早速来ましたね」
荒れ地となっているフィールドで砂煙を上げながら突進してくる突撃豚。来るのが丸わかりだから奇襲なんて受けないな。
「よっ、と。これで終わり!」
馬鹿の一つ覚えの突進を大盾で受け、脳震盪を起こし倒れた突撃豚の頭にかかと落としを決めて魔石に変える。
「全く危なげが無いわね。でも、関中佐が惚れ込んだという実力はこんな物では無いでしょう?」
「それはこれからお見せしますよ」
その後も突撃豚を大盾とかかと落としで排除していき二階層に進む。草原を進んでいると草叢から蹴撃兎が飛び出して来た。
しかし兎より速いモンスターを倒してきた俺にそんな攻撃は通用しない。大盾で防ぐと同時に跳ね上げ、双剣に換装すると十文字に切り付けた。
空中に居る蹴撃兎は避けられない。成す術もなく切り裂かれ魔石へと変わっていった。
「突っ込み所しか無いのだけど、大盾から瞬時に剣に持ち替えるなんて反則でしょう!」
「それに、それは片手半剣ですよね?両手で一本ずつ振るう武器では無いですよ!」
「最後にそのドレス!姫騎士なんですか?!」
双剣に換装したところ、藤田パーティーから容赦なく突っ込みを喰らいました。
「えっと、取り敢えずそういうスキルなので。剣はちゃんと扱えるのでご心配なく。ドレスは宝箱からのドロップで、性能が良さそうなので」
兎の魔石を拾いつつ質問に答える。二匹目以降の兎さんは片手半剣でも問題ないと示す為に片方の剣で蹴りを受けてもう片方の剣で斬るようにした。
出てくる敵は俺が双剣で倒していく。黒鉄虫や孤独狼、奇襲ヘビでは足止めにすらならない。
「こんなに楽で良いのかしら」
「完全に出番無しですね」
藤田軍曹と坂本伍長がぼやいているが、割り切って貰うしか無い。戸田伍長は荷物の運搬といういつものお仕事を熟しているのでぼやきに参加していない。
「六階層は武器を変えます」
「手斧か?それにしてはバランスが悪すぎるな」
柄を短くした斧槍は藤田軍曹には手斧に見えたようだ。他の人達も訝しげな視線で見ている。
「これは手斧ではありません。こうやって使います」
タイミング良く青毛熊が襲って来たので、柄を伸ばしつつバットのようにフルスイングする。斧部分で薙ぎ払われた青毛熊は胴体を深く切り裂かれ敢え無く魔石へと変わってしまった。
「ご覧の通り、これは斧槍です。女性にしか使えませんが自在に柄を伸縮させられる特殊効果が付いています」
「まだ中学生よね?何でそんな優秀な装備を揃えているのよ・・・」
それは運と言うか巡り合わせと言うか、偶然の賜物です。宇迦之御魂様の思し召し・・・なんて事は無いと思いたい。
 




