第百九十六話
あっと言う間に時は過ぎ、ダンジョンに潜る日となった。三日前と同じ部屋に通されると八奈見大尉と六人の女性が待っていた。
「お待たせしてしまい申し訳ありません」
「まだ時間前だから気にしなくて良いよ。我々が早く来ただけだ。彼女達は支援隊の藤田軍曹、戸田伍長、坂本伍長だ」
八奈見大尉の紹介に合わせて礼をされたので俺も頭を軽く下げて礼を返す。支援隊の三人は冬馬伍長達よりキャリアが長そうだ。
「大尉、これ差し入れです」
「おっ、ありがとう。一度食べると癖になる味なんだよな」
干芋が入ったタッパーとバナナチップスが入ったタッパーを八奈見大尉に渡すと女性六人は興味深げにそれを見た。
「大尉、それは何ですか?」
「滝本君お手製の干芋とバナナチップスだよ。これが市販品より美味しくてね。情報部では取り合いになる程だ」
大尉が嬉しそうに答えると、女性陣の眼圧が増したような気がした。
「まだストックはありますから味見しますか?」
バナナはおやつに入らないと言われたのでデザート代わりに持ち込めたら持ち込もうと量産してきたのだ。それの一部を差し出す。
「これ、本当にお芋?こんなに甘いなんて!」
「バナナチップスも甘くて食感も良いわ」
両方ともお口に合ったようで、出した物は全て無くなってしまった。
「これ、まだあるのかしら?」
「はい、持ち込めたら持ち込もうと思っていましたから」
持ってきた分を全て机に出すと、予想よりおおかったのか女性陣が歓声をあげた。
「これは思わぬ楽しみが出来たわね」
「軍のレーションも美味しいけど、たまには変化が欲しかった」
干芋とバナナチップスを戸田伍長がリュックサックに入れていく。彼女が荷物担当のようだ。
「では段取りを確認する。両パーティーは九階層にてベースを設置、一泊し冬馬パーティーは先に進む。行ける所まで進み九階層に戻って一泊。ベースを解体し撤収する。質問はあるかな?」
暫し静かな時間が流れる。しかし大尉に質問する者は誰も居なかった。恐らくこの段取りで何度も探索を行ってきたのだろう。
「では作戦を開始する。無理は絶対にしないでくれ」
女性六人と俺は前回も潜ったダンジョンに移動する。八奈見大尉とはここでお別れだ。
「冬馬伍長、装備はどれを使いましょうか?」
「九階層までは戸田パーティーが戦闘を行う。最も体力の消耗を防げる物で良い」
パーティーリーダーである冬馬伍長に使うべき武器を確認したのだが、今日は出番が無いらしい。となると一番楽なのは武装が無い現状(男)のままなのだが。
「ふむ、資料にあった女性体と着せ替え人形というスキルか。可能なら見せてもらいたい物だが」
「俺は構いませんが、どうします伍長」
臨時とはいえ俺は冬馬パーティーのメンバーだ。勝手に返答せずリーダーに判断を仰ぐのが正解だろう。
「翌日に影響が無いなら構わない。私達も前回は大盾しか見ていないから、他の武装も見ておいた方が良いな」
「ではダンジョンでスキルを発動します」
前回大盾を使ったパーティー戦は行ったが、他の武器を使った連携は試していなかった。深い階層に潜ってから見せるよりも浅い階層で見せておいた方が良いだろう。
俺達は分厚い扉を抜けてダンジョンに入る渦へと飛び込んで行った。




