第百九十三話
「すいません、これ下さい」
「はいよっ、四百円ね。優ちゃん今日も綺麗だねぇ」
八百屋のお姉さん(生年を聞くのはご法度)に五百円玉を渡し、お釣りの百円を貰う。購入したバナナ二つをエコバッグに入れて家に戻る。
今日は昨日舞に頼まれた干芋を作る予定だが、ついでに新たなお菓子作りに挑戦しようと思い立ち材料を買いに来たのだ。
俺が作りたいのはバナナチップス。前世で結構好きなお菓子だったので作り方を調べてみた。材料もバナナだけとお手軽なので挑戦する事にしたのだ。
この時間父さんと母さんはショッピングモールに買い物に出掛け、舞は小学生の時の友達の家に遊びに行っている。家の中には俺だけなので玉藻になっている所を見られる心配はない。
まずは干芋作りから。何度も作っているので戸惑う事なく作る事が出来た。迷い家さんのお陰で干す日数を短縮出来るのはありがたい。
次はバナナチップスだ。皮を剥いて実に付いている筋を丁寧に取り除く。これが残っていると苦味となるらしいので残さないよう気をつける。
輪切りにしてキッチンペーパーの上に並べる。レンジで加熱して中の様子を見ながら黒くなる前に取り出せばオッケー。粗熱を取り冷蔵庫で冷やせば出来上がり。
続いて乾燥バナナに取り掛かる。干芋で使ったザルに輪切りにしたバナナを並べる。これを天日干しすれば完成だ。
二日から四日かけて乾燥させる必要があり、時折ひっくり返す工程が必要らしいのだがチートな迷い家さんはその手間を消してしまう。
一度出入りすればあら不思議。バナナ達は均等に乾燥し干しバナナの完成である。迷い家さんの有能さには感謝してもしきれない。
冷蔵庫のバナナチップスも回収し、いざ試食。干しバナナは柔らかさが残り、バナナチップスはパリパリとした食感が楽しい。どちらが上という物ではなく、両方別の美味しさがあった。
成功に気を良くした俺は購入していたバナナ全てを干しバナナとバナナチップスに変えていく。と言っても五本づつなのでそう時間も掛からずに調理を終えてしまった。
因みにこの世界でもバナナやマンゴーなどの果物は台湾やフィリピンといった国々から輸入している。
宗主国の軍が本国に帰った後の各国を支援した海軍は、今でも定期的に巡回して海賊や駆逐漏れのモンスターを退治し治安を守る手伝いを行っている。
更にはインフラ整備を行うと同時にスキルを使った工法等も地元の人々に無償で伝授している為、帝国軍を侵略軍と嫌う者は居なかった。
「これ、新作なんだけど味見してくれない?」
夕食後、ピリ辛麻婆茄子による口内の辛さを消すのも兼ねて乾燥バナナとバナナチップスを提供した。
「程良い甘さで美味しいな」
「優ちゃん、ダンジョン探索止めてお菓子屋さんを開業するの?」
母さんがとんでもない冗談を言うが、店売りの物と遜色ない美味しさだと褒めてくれたのだろう。
「お兄ちゃん、勉強できて強くてお菓子も作れるって最高すぎない?」
「お菓子を作ると言っても、干すだけの簡単な物だからな。今度一緒に作ろうか」
「うん、舞も作ってみたい!」
バナナチップスなら干す時間は要らないので迷い家の力を借りなくてもすぐ作れるからな。
干しバナナもバナナチップスも日持ちする上に軽くて運びやすい。ダンジョンに非常食として持ち込むのに最適だろう。
迷い家さんのお陰でドライフルーツは作りやすいし、他のフルーツも作ってみようかな。




