第百九十二話
「まさか、宝箱が地球の神の干渉による物だとは思いませんでした。その後二柱の神はどうなったのですか?」
「全世界の神々より迂闊な行動を責められ、今も封印されておる。世界中の神々から封印具が提供されて使用されておるでの。抜け出すことはまず不可能じゃ」
転送システムを付加しておけば、というのは後になって全てが判明したからこそ言える事ではある。しかし、それを加味しても二柱の神の行動は許される物では無かったのだろう。
「現状、ダンジョンは役に立っておる。エネルギーと食料の供給による恩恵は大きい。しかし、いざという時に停止若しくは消滅させられるという安心が欲しいのじゃ」
「将来ダンジョンに変化が起きる可能性もあります。神々の懸念は当然の物かと。微力ではありますがダンジョン攻略に全力を尽くす所存に御座います」
軍属になれたし、軍との関係を深めて攻略を進めていこう。玉藻の事を明かしても大丈夫な信用出来るパーティーと組めれば良いな。
「そろそろ下界は日が暮れる。戻った方がよかろう」
「はい、それでは御前を失礼致します」
深く頭を下げ退出の挨拶をする。次の瞬間、俺は氷川神社の拝殿前に立っていた。辺りは夕陽に照らされて茜色に染まっている。
参拝客は一人も見当たらない。その瞬間を狙って送ってくれたのだろう。見つかって追われるのは面倒なので空歩で駆け上がり林の中に降りた。
周囲に人がいない事を確認して男に戻る。そのまま大宮公園駅から電車に乗って帰路についた。
大宮駅で母さんにこれから帰るとメールする。ついでにSNSを確認すると玉藻の動画で騒然としていた。賽銭箱前から消えているのがしっかり撮影されていた。
当初は素早く動いたのを捉えられていないだけだろうという意見が多かった。しかし解析した結果動く事無く消失している事が判明し大論争が巻き起こった。
透明になれるスキルだとか瞬間移動するスキルだと諸説出たようだが、どれも憶測に過ぎないので主張が違う者を論破するには至らない。
「お兄ちゃんおかえりなさい!」
「ただいま、舞。迎えに来てくれたのか」
家の最寄り駅に到着し改札を出ると舞が待っていた。抱きついてきた舞を受け止め頭を撫でる。
「お父さんがお刺身を食べたいから買ってきてって」
「じゃあ一緒に買いに行こうか」
舞と手をつなぎ駅前のスーパーに入る。青果コーナーを抜ければすぐに鮮魚コーナーだ。
「お兄ちゃん、薩摩芋買っていこう。またあの干芋食べたい」
「薩摩芋はストックがあるから大丈夫だぞ。お兄ちゃん張り切って作るからな」
干芋は作り置きしておいたのだが、修学旅行中にストックが切れたようだ。可愛い妹の為、腕によりをかけて作らねば。
鮮魚コーナーで父さんのリクエストであるマグロ赤身とイカ、青柳を籠に入れてレジに並ぶ。然程待たずに俺達の番がきた。
レジのお姉さん(女性店員さんは全員お姉さんである。これを間違えた場合、生命の保証はない)が赤身のパックをスキャナーに通し、イカのパックも通す。
青柳を通せば終わりなのだが、そこでお姉さんの手が止まってしまった。
「申し訳ありません、少々お待ち下さい」
お姉さんはパックを置いてどこかに行ってしまった。お客を置いてレジを空けるとはどうしたのだろう。
「あっ、お兄ちゃんこれ」
「・・・こんな事ってあるんだなぁ」
レジに置かれたままの青柳のパックには値段やバーコードが印刷されたシールが付いていなかった。これではレジを通せない。
「申し訳ありません、お待たせ致しました」
青柳のパックを手に戻ってきたお姉さんがそのバーコードを読ませてレジを通した。舞がお使い用のカードを提示して会計を済ませる。
「こんな事滅多にないよね。貴重な体験しちゃった」
「そうだな、ある意味貴重だったな」
ひょんな事で珍事を体験した俺と舞は手を繋いで家へと帰って行った。




