第百九十一話
それは前触れもなく突然に現れた。世界を穿ち濃密な魔力を放出する渦は同時にモンスターと呼ばれる特異な動物も放出した。
世界を観測する役目を負った世界の神々はモンスターに蹂躙される人類に焦るが、掟で地上に手出しは出来ない。
そうこうしている内に異世界の神から連絡が入り、神々はダンジョンが出現した経緯を知る事となる。
しかし、それは何の解決にもならなかった。ダンジョンを元の世界に戻せる訳でもなく、消す方法が有る訳でもない。神々は見守るしか手立てが無かったのだ。
しかし、とある神だけは違う反応を見せた。面白そうだ。しかし訓練施設だっただけあって娯楽要素が少ない。
レアドロップのような人を惹きつける要素を増やせばもっと面白くなるだろう。そう考えるもその神にはダンジョンをどうこうする知恵も知識も持ち合わせていなかった。
イタズラな神は考えた。自分が持たないのなら、それを持つ神を巻き込めば良い。
巻き込む相手の目星は付けていた。知識を得る事に貪欲で、全てを知らねば気が収まらぬ知恵の神。そんな神に彼は囁いた。
あれを解析したくはないか?異世界の者が作った特異空間に繋げるゲート。その仕組みを解明したくはないか?
知恵の神は答えた。解析したい、解明したいに決まっている。しかし我らは下界への干渉を禁じられていると。
しかし誘惑は止まらない。ゲートこそこの世界の存在となったが、その先の特異空間はこの世界に非ず。我らが手出しをした所で禁忌には触れぬ。
世界に属さぬ特異空間などという、掟が想定していなかった存在。その穴を突いた詭弁に知恵の神は負けた。
知恵の神は全ての知識を動員し、仮定を立て、検証する。そして得た知識を基に新たな仮説を立て検証していく。
やがて知恵の神はダンジョンに干渉する術を確立することに成功した。それは一つのダンジョンに干渉すれば複製元と複製したダンジョンにも適用させるというプログラムだった。
ダンジョンは大元のダンジョンをコピーして作られた。故にコピー元を辿っていけば元祖のダンジョンに辿り着き、それからコピーされた全てのダンジョンまで影響を及ぼす事で全てのダンジョンを改変出来た。
イタズラな神は喜び、試験として影響の少ない改変を行う事を提案した。それがダンジョンに宝箱を発生させるという物だった。
ダンジョンを改変出来るかどうかしか興味がない知恵の神は賛同した。そして一つのダンジョンに施された改変は瞬く間に全てのダンジョンに伝播した。
イタズラな神と知恵の神はダンジョンを自由に出来ると喜んだ。しかしそれは束の間の糠喜びであった。
外部からの改変を検知したダンジョンは自己防衛プログラムを発動する。それにより空間を超えた干渉はシャットアウトされた。
また、改変が伝播する事を防ぐ為複製履歴が削除され、それを伝った一斉変更も不可能となった。
それを知った他の神々は怒り狂った。何故独断で動いたのか。何故報告をしなかったのかと。
そもそも改変する内容が違っていたら。階層間の転送を可能とする改変を行っていれば。ダンジョンの攻略は比べ物にならぬ程容易となっていただろう。
こうしてダンジョンは最奥からの干渉以外受け付けなくなり、変更も個々に行なわねばならなくなってしまった。




