第十九話
誰だって結果が同じなら楽な手法を取れる方を選ぶ。突撃豚をターゲットにする探索者は、一階層が草原や荒野のようなフィールドのダンジョンを敬遠する。
その為このダンジョンの一階層には殆ど人は来ない。時たま次の階層の行き来で通り掛かる探索者は居るが、次の階層への最短ルートから外れてしまえば気にする事はない。
時折襲い来る突撃豚を返り討ちにしつつ最短ルートから離れる。かなり離れた場所で女性体のスキルを発動した。
何度か突撃豚と戦ってみたが、体力や筋力は男性の時と変わらないように感じた。体捌きの感覚が少し違うが慣れれば問題ないだろう。
そして今日の本命、妖狐化を発動した。それに伴い五感も強化されるのか、より遠くまで見られるようになり聞こえる音も増えている。
まずは攻撃手段である狐火を発動する。一度に出せるのは二つのようで、それ以上は出せなかった。浮かんだ火の玉は思い通りに動かす事ができ、突撃豚にぶつければ一撃で撃破する事が出来た。
次に空歩を試す。見えない足場が作られ、その上に乗っていくような感じか。空中に踏み出すのに勇気が必要だったが、慣れれば自由に空中を走れるのは面白い。
そこまで検証した段階でかなりの時間を費やしてしまった。帰りが遅くなれば家族に心配をかけてしまうので、最後のスキル迷い家は明日検証するとしよう。
「おっ、無事に帰ってきて・・・何だそりゃ?」
「あはは、少々間抜けな事になってしまいまして」
警備員さんが帰還した俺の姿を見て絶句する。帰還した俺は片手にジャージを丸めた即席風呂敷を持っているのだ。
元々ダンジョンに潜るつもりが無かった俺は、戦利品を入れる袋を持っていなかった。なのに調子に乗って突撃豚を倒しまくり、魔石だけでなくレアドロップの豚肉一キロまで得てしまった。
初の戦利品だし豚肉は良いお土産になるので持ち帰りたい。考えた結果出した答えが、着せ替え人形でジャージの上着を出してそれを風呂敷にするというものだった。
「それ、ジャージか。入る時にそんな物持ってたか?」
「まあ、そこは企業秘密ということで。では失礼します」
警備員さんに別れを告げ、受付に戻る。一個百円の魔石を二十五個売り、二千五百円をカードに入れて貰った。近くの窓口の受付嬢さんも俺がジャージを持っている事に訝しがっていたので、俺は取引を持ちかけた。
「受付嬢さん、肉を持ち帰る為のビニール袋を貰えませんか?もしくれたら何故ジャージを持っているか教えますよ」
豚肉をこのままジャージに包んで持ち帰るのも憚られたし、教えて困るスキルでもない。受付嬢さんは喜んでスーパーなどで使われている袋をくれた。
「俺は着せ替え人形というスキルを授かりまして・・・」説明した後でジャージを剥がした着せ替え人形を呼び出して着せた。
期せずして目立つ事をしてしまったが、これが吉と出るか凶と出るか。まあ、不都合があれば別のダンジョンに通えば良いか。




