第百八十九話
三日目は奈良観光となる。東大寺で大仏様の大きさを実感し、奈良公園で鹿煎餅をせがむ鹿から逃げ回る。
興福寺と春日大社、薬師寺といった有名所を回り国道163号線を西に進む。途中昼休憩を挟んで大阪に突入。大阪城を見学して今日の宿に入った。
「何で京都に戻らずに大阪に来るんだろうな」
「そりゃ、京都は初日に見学してるし二日目の班行動でも回ってるからだろう」
「だけど、大阪も大阪城以外に見所あるか?」
クラスの男子達の会話が聞こえていたが、確かにこの世界の大阪は京都に比べれば観光地は少ない。ユニバーサルスタジオもハルカスも梅田スカイビルも存在しない。
天満宮や四天王寺、難波八阪神社は健在だが、寺社仏閣の数で京都に劣るというのは言わずもがなだ。
食事も大阪らしくたこ焼きやお好み焼きが出される・・・なんていう事もなくビュッフェ方式の食べ放題。ジャンルに拘りがある訳でもなく和食も洋食も並んでいて好きに食べる事ができた。
四日目は大阪駅から高速鉄道に乗り貸し切り列車で東京に戻る。この世界でも開業以来大きな事故を起こしていない高速鉄道は音も振動も少なく快適な旅を提供してくれた。
東京駅では行きに集合した待合室で学年主任教諭の締めの言葉を聞いてお開きとなった。生徒は家からの迎えの車や鉄道に乗り家路を急ぐ。
俺も国鉄に乗り家へと帰る。三泊四日の修学旅行も終わってみればあっと言う間に感じた。
京都と奈良は前世の中学と高校でも修学旅行で訪れていたので新鮮味は無かった。寺社仏閣は前世と変わっていなかったのだ。
なので余計に伏見稲荷大社での宇迦之御魂大神様とお会いした衝撃が強く感じた。まあ、神様に拝謁が叶ったなんて体験をすれば他のどんな出来事も霞んでしまうのだが。
「ただいま」
「御帰りなさい、お兄ちゃん!」
家に帰りリビングに入ると同時に抱きついてきた舞を受け止める。引っ付く舞をそのままに背負ったリュックを下ろす。
「ほら、お土産買ってきたぞ」
「定番の生八ツ橋に・・・これ可愛い!」
奈良の土産屋てお勧めと書いてあったならんでならんでしかまろくんというクッキーは二足歩行する鹿がプリントされている。それが舞の琴線に触れたらしい。
「あら、優ちゃんお帰りなさい。修学旅行は楽しかった?」
「お寺を色々見てきたよ。感想はそれ以外無いかな」
見学先は寺社仏閣で他に言いようがない。お行儀の良い生徒達は騒いだり騒動を起こすなんて事もなく、心に残るような出来事は特になかった。
「礼儀正しく品行方正というのも、思い出が残らないという点ではマイナスなのかな」
「そうね、折角の学校行事が印象に残らないというのは寂しいわね」
その点去年の運動会は印象に残る物だった。その記憶はタンスの奥に隠されたドレスと共に封印したいのだけどね。
「優、無事に帰ってきたな。お帰り」
「父さんただいま。何事もなく帰ってきたよ」
夕食を食べながら観光した寺社仏閣について話した。二日目は伏見稲荷大社しか行っていなかったが、他のお寺も回った事にして話を作った。そうしないと長時間伏見稲荷大社で何をやっていたのか?と不審に思われてしまう。
「そうそう、明日は知り合いにお土産を渡しに行ってくるよ。賞味期限の問題があるからね」
生八ツ橋の賞味期限は一週間だ。明日か明後日で届けなければ次の土曜日まで保たない。
素戔嗚尊様の下に行くのは半年ぶりか。随分とご無沙汰をしてしまったが不興を買っていなければ良いな。




