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第百八十二話 文部省にて

 ここは文部省にある文部大臣の執務室。豪華な応接セットに座る文部大臣は訪れた客を前に不快な顔を隠さなかった。


「先の検証において中学生であろうと軍の攻略部隊のメンバーと同等の働きが可能との結論が出ました。彼ら優秀な人材を軍属とする事、もはや反対したりしないでしょうな?」


「乃木中将、少しお待ちいただきたい。それは些か性急過ぎるのでは?」


 文部大臣と相対しているのは、陸軍参謀本部の重鎮乃木中将だった。先に行われた検証の結果を踏まえ文部大臣に義務教育中の生徒を軍属とする事に同意させるのが目的だ。


「議論は長い間重ねてきました。そして中学生であろうと問題なくダンジョン攻略が可能であると証明もされました。そちらが拒む合理的な理由は無いと存じますが」


「確かに検証に参加した者は軍の兵と遜色ない活躍をしたと聞いている。しかし一人の例だけで判断するのは拙速と言わざるを得ない」


 苦しい言い訳で何とか結論を持ち越そうとする文部大臣。しかしそれをさせる程乃木中将は甘くなかった。


「ほう、では何度検証を重ねれば満足いただけるので?十回ですか?百回ですか?具体的な回数とその数字の根拠を納得できるデータと共に提示されたい」


「ぐっ、そ、それは・・・」


 返答出来ずに言葉に詰まる文部大臣。其の場凌ぎの発言であり、数字の根拠など示せる筈もなかったのだ。


「それとも、初めから結果など関係なく形だけの検証をすれば充分とでも思われていたので?」


「そんな事は無い、学生の安全を充分に検証する必要があるからだ!」


「だから何度検証すれば気が済むのですか?それも提示せず永遠に検証を重ねろとでも?」


 堂々巡りとなった話し合いに怒りを顕にする乃木中将。今は前線には出ないもののモンスターと命のやり取りを重ねてきた中将の気迫は凄まじかった。


「そちらがそんな対応をするならこちらにも考えがあります。先の密約は反古とさせていただき、全てを公にさせていただく」


「なっ、それとこれとは別だろう!」


 思わず立ち上がり声を荒げる文部大臣。先の事件がマスコミに流れれば文部省は大炎上する事は確実。それだけでは済まず、現行の制度の根本的な変更すら迫られるかもしれない。


 そんな事になれば大臣の辞任は当然の事で、文部省の持つ発言力は低下し利権も大幅に削られる事は火を見るより明らかだった。


「検証の協力してくれたのは、あの事件の被害者なのです。軍への入隊を希望してくれていますし、無関係ではありませんよ」


「だ、だが彼は特殊なスキルを所持していて彼を基準に考えるのは公正さに欠けると・・・」


「ならば彼が軍属となる事には反対されませんな?能力は申し分なく、既にソロでダンジョンに潜っているのですから」


 他の人間は兎も角、滝本優を軍属とする事に反対する理由を文部大臣は提示出来なかった。自分の意思でダンジョンに潜っている以上未熟で危険だとは言えないし、軍に入るのも彼の意思だからだ。


「他の生徒についても、我々が軍属としたいのは高い戦闘能力を持つ者なのです。そういった者達は殆どが自分でダンジョンに潜るのですから、軍属とならずとも危険度は変わらないでしょう」


「・・・どの程度のスキル保持者を対象とするかは議論を重ねる必要がありますな」


 文部大臣は滝本優を軍属とする事を認める代わりに、他の生徒達を軍属とするまでに時間を掛けて議論する事とさせた。


 特殊なスキル持ちである優は例外として認めるしかないと妥協したのだが、一人の前例があればその後はそれに倣うのが日本の官僚というものだ。


 陸軍はこの会談により大きな成果を得たのであった。

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― 新着の感想 ―
WW2の敗戦なしで、 かなり理性的な軍部だね。 お国のために、で無理言う軍部だったからな でも、学徒徴兵権みたいなもんだから許せるもんではないな。 中学生に思考誘導できそうなものが無制限で接触しちゃあ…
[一言] スキルがあるので確かに一概には言えないが、 学問として統計学があり必要な最低サンプル数は存在しているし学者に諮れば具体的な数字をだすのはそう難しくない。何を言っても無駄と思ってしまった可能性…
[一言] あくまで先ずは優秀なスキル持ちかつ希望者への職業体験・課外授業扱いにするくたいしか文部省には対抗手段はないかなぁ。
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