第十八話
頑丈そうな壁に囲まれた空間に浮かぶ黒い渦、これがダンジョンという異空間に繋がる入口だ。渦の左右にはギルドの警備員が立っていて、俺を見つけると話しかけてきた。
「おいおい、そんな格好でダンジョンに入る気か?戦闘系スキルでも持っているのか?」
ダンジョンに潜るなら、それなりの装備を整えて入るというのが常識だ。しかし有用な戦闘系スキルの保持者は5階位なら装備無しでも行けてしまう。スキルの詮索はマナー違反なのだが、警備員さんとしては職務上聞くべきと判断したのだろう。
「スキルは非戦闘系しかありません。その代わり特殊な体質なので問題ありませんよ」
「特殊な体質?どんな体質だと言うのだ?」
「ヘラクレス症候群という病気です。筋肉の密度が高いという先天性の物で、3倍以上の密度になります」
俺の答えを聞いた二人の警備員さんはかなり驚いていた。かなり稀な病気だし、普通の人はその存在すら知らないだろう。
「それなら大丈夫だと思うが、無理はしないようにな」
「はい、一階の浅い所でダンジョンに慣れようと思ってます」
心配してくれた警備員さんに軽く頭を下げてダンジョンの渦に入る。視界が暗転し、次の瞬間には広々とした草原に立っていた。
「話には聞いていたけど、体験すると感慨深い物があるな」
前世では物語の中でしか存在しなかったダンジョン。俺は今、自身で何度も描写していた不思議な空間に居る。
「なんて感慨に耽ってないで、モンスターを探さないとな」
ダンジョンではどのダンジョンでも出現するモンスターは基本的に変わらない。ダンジョン毎に限定モンスターが出てくる場所もあるが、確認された数は少ない。
なのでダンジョンの難易度はどこも変わらない・・・と言いたい所だが、フィールドとの相性により多少の難易度は上下する。
「おっ、記念すべき初モンスターが現れたか」
離れた草地でこちらを睨む一頭の豚。一階層のモンスター、突撃豚だ。名前から察する通り弾丸のように突進し体当たりをかましてくるモンスターである。
「早速突撃してくるか・・・よっと」
勢いをつけて走ってきた突撃豚を左に躱して振り返る。体当たりに失敗した突撃豚は草を削りながら足を踏ん張り、向きを変えて俺と相対する。
二、三度前足を掻き再度の突進をかける突撃豚。同じように躱すが今回は右足で通過する突撃豚の足を軽く払ってやった。
全力で走っていた突撃豚はバランスを崩し、勢いのまま草地を転がっていく。俺は走って追いかけると、停止したものの目を回している突撃豚の頭目掛けて踵落としをお見舞いした。
自爆ダメージに追い打ちを食らった突撃豚は霧のようになって消えていき、その場に小さい石を残した。ファンタジーものでお馴染みの魔石というやつだ。
ここが迷路や洞窟のフィールドならば、壁を背にして突撃を避ければそれだけで突撃豚は倒せる。しかし草原ではぶつける物が無いのでそういったフィールドに比べると倒すのに手間が掛かるのだ。




