第百七十九話
「滝本君、もし中学卒業前に軍属になれるとしたらなってくれるかな?」
「軍に入りたいという気持ちは変わっていません。なので喜んでやらせていただきます」
地上に戻り、石丸さんが帰った後で関中佐がこんな質問をしてきた。なので正直に答えておいた。早めに軍と共同出来るなら俺もありがたい。
「ではご両親にお話を・・・いや、もうすぐ中間試験だったね。それが終わってから訪問させてもらいたい」
陸軍中佐ともなれば自分の都合を押し通せそうな物なのに、こういう気遣いが出来る所が凄いと思う。この人の部下なら仕事がやりやすそう。
関中佐と二つのパーティーの人達に挨拶をして基地から出た。最寄り駅まで歩くつもりだったが、関中佐によりタクシーが呼ばれていた。
遠慮しようにも既に呼ばれているのだから使わなければタクシーに迷惑をかける。運転手さんにはチケットが渡されていて、料金は後に軍で精算すると言われた。
タクシーを呼んだ理由は送るのを断らせない為か軍の車だと降りる時に目立つからか、はたまたその両方か。軍を実質動かす佐官となるとこれくらい出来て当り前なのだろうか。
帰宅し夕食の席で検証の顛末を話し、テスト終了後に関中佐が訪れたいと言っていた事も話した。
「父さんは優の意志を尊重する。普通なら学業に支障が出るのを心配する所だが、優にその心配はまず無いからな」
「そうね。優ちゃんも舞ちゃんも、そんなに根を詰めなくても良いと思う程勉強頑張ってるから」
俺達兄妹に対する両親の信頼は厚い。だからこそその信頼に応えようとして頑張ってしまう。
「お勉強難しくなったから、ちょっと自信無いんだけどな」
「小学校のテストと中学校のテストは別物だからね。しかも私立だから公立の物より難しいと思う。分からない所はお兄ちゃんが教えるから、遠慮せずに聞くんだぞ」
食事が終わり、家族で八女茶を啜り食休みをとる。母さんの料理が美味しすぎるので、ほぼ毎日食べ過ぎ状態だ。
「二人とも、折角のゴールデンウィークなんだから行きたい所は無いのか?勉強はゴールデンウィーク明けで良いだろう」
「行きたい所かぁ」
父さんの問に俺と舞は腕を組んで考え込む。俺は特に行きたい所は思い付かなかった。
この世界にディズニーランドやユニバーサルスタジオは存在しないが、豊島園や西武園、後楽園等の遊園地は存在する。しかし行ってみたいとは思わない。
動物園もモフるのは好きだが見るだけなら行こうとは思わないし、水族館も魚を見ると食べられるのかを真っ先に考える俺が楽しめるとは思わない。
「特に無いなぁ」
「私も、思いつかないや」
車で出かけようにも、何処も混むこの時期は運転する父さんの負担が大きくなるから却下。電車も特急や高速鉄道は混雑するだろう。
「手軽な所で映画はどう?色々と上演してるみたいよ」
母さんが提示したタブレットには新都心にある映画館で上映されている映画の一覧が表示されていた。アニメや特撮、コメディや恋愛ものと多岐に渡るジャンルの物が上映されているみたいだ。
「映画館で映画って見たことない。面白いかな?」
「お兄ちゃんも無いな。でも画面が大きいから迫力はテレビよりあるだろう」
前世で何度か映画館に行った事はあったが、この転生後は行っていない。この世界の映画は前世の映画と同じだろうか。
「よし、じゃあ優と舞は初映画館だな」
こうして母さんの発案がとおり、俺達は映画館に特撮映画を見に行く事になった。
情報部員A「あっ、誰かが中佐に騙されてる予感がする」
情報部員B「あの人、外部の受けは良いからなぁ・・・」




