第百七十六話
あれから少しの時が経ちゴールデンウィークに突入した。誕生日を祝ってもらい、両親からプレゼントも受け取った。
両親が選んだのは匠の手による彫刻刀セットだった。中学生に贈る品としては首を傾げるチョイスだが納得してしまう。
普通の中学生ならゲーム等の遊び道具を欲しがるのだろうが、俺はゲームやアニメに興味を示していないのでその辺は却下となる。
最も欲しい物は武器防具だが、二十階層以降で通用する物となると中学生の誕生日プレゼントとして贈るには高価過ぎる。という訳で俺が趣味としている木彫りで使う彫刻刀を選んだという事だろう。
更に数日経った五月の三日。俺は愛用のリュックを背負って練馬にある陸軍基地を訪れている。基地内のダンジョンに軍のパーティーと共に潜る為だ。
入口を守る兵士さんに名を告げると関中佐が待つ会議室まで案内してくれた。少し驚いていたのは俺が少し華奢だったからだろう。
女性と思ったら男性だった、なんて事は無いだろう。多分・・・いや、絶対に無い筈だ。探索者らしからぬ線の細さに驚いただけの筈だ。
「おはようございます、関中佐。今日は宜しくお願いいたします」
「おはよう、滝本君。こちらこそよろしく頼むよ」
既に会議室で待っていた関中佐と挨拶を交わす。会議室には中佐の他に四人の男性と三人の女性が座っていた。
「文部省の者はまだ来ていない。男四人のパーティーが護衛役で、滝本君には女三人のパーティーに入ってもらう」
関中佐の言葉を受けて女性三人が席を立ち自己紹介してくれた。
「冬馬伍長です。このパーティーのリーダーでメインを務めています」
「井上上等兵です。遊撃です」
「久川上等兵です。視力上昇と気配察知スキルで探索を担当します。あっ、荷役も兼ねてます」
冬馬伍長は体力増強と片手剣スキルを、井川上等兵は速度上昇と器用上昇スキルを保持しているらしい。
「滝本優です。着せ替え人形と女性体というスキルを授かっています」
俺がスキルを告げると関中佐以外の全員が僅かに動揺した。それを見る関中佐は楽しげなので、スキルについては何も伝えていないのだろう。
何でそんな巫山戯たスキル持ちが、と文句を言っても可笑しくない状況だが、誰も口を開かない。上官の決定に異議を唱えないという軍人の性だろう。
「滝本君のスキルに関しては、文部省の者が来てから説明する。二度手間は省きたいからな」
全員が席に座って十分程。気まずい空気の中指定時間十分前に文部省からの役人が到着した。
「これはこれは、私が最後でしたか。私は文部省初等中等教育局初等中等教育企画課の石丸です」
「祭日にご足労頂きありがとうございます。彼が今日の主役である滝本優君です」
「私立ベルウッド学園中等部三年の滝本優です、よろしくお願いします」
石丸さんはベルウッド学園の名を聞いてかなり驚いたようだ。
「関中佐、私は既に探索者としてダンジョンに潜っている中学生を呼んだと聞いていたのだが?」
「そうです。彼は去年スキルを授かってから何度もダンジョンに潜っていますよ。しかもソロで活躍している逸材です」
ベルウッド学園に通うのは良家の子女や成績の良い者ばかりだ。良家の子女はダンジョンに潜ったりしないし、学業で入学する者は官僚や公務員の上級職を目指すのでやはりダンジョンには潜らない。
そんな学園の生徒が来たので意表を突かれたのだろう。関中佐、すっごく楽しそうな顔してますね。




