第百七十四話
母さんが出した狭山茶を飲み一息入れる関中佐。お茶受けとして迷い家謹製干芋が添えられている。
「それを解決するべく、義務教育中でも軍属として任官出来るよう軍は文部省に要請しました。今なら文部省は軍の要請を無下には出来ませんので」
少し嬉しそうなのは気の所為ではあるまい。そして漸く掴んだこのチャンスを逃してなるものかという気迫も感じる。
「しかし文部省も無条件で許可はしませんでした。まだ子供の中学生にそれだけの実力があるのかを証明しろと言われまして」
「それで優に白羽の矢が立ったという訳ですか」
ソロで二十階層を突破している実績があるのだし、文部省が折れる切っ掛けも俺が作ったと言っても過言ではない。俺以上の適任は居ないだろう。
「日帰りで帰れる階層までしか潜りませんし、文部省の人間は攻略部隊のパーティーが別途護衛に就きます。当然日当もお支払い致します」
「ふむ・・・優の意思に任せよう。優はどう思う?」
父さんは受けるか受けないかの判断を俺に託してきた。母さんは父さんに任せて介入しないようで沈黙を貫いている。
「俺は受けたい。軍に入りたいという気持ちは変わっていないし、今から軍の人とパーティーを組んで探索するのはメリットしかないよ」
「おおっ、受けてくれますか。それは助かります!」
喜色を顕にした中佐は目的を達した事で気が緩んだようだ。再度お茶を飲み干芋に手を出した。
「うわっ、これは美味しいですね。部員へのお土産にしたいので買ったお店を教えていただけませんか?」
「それは市販品ではなく優ちゃんの手作りなんですよ」
母さんがちょっと誇らしげに俺が作ったと暴露した。まさかの製造元に驚きを隠せない関中佐。
「これ、市販品より断然美味しいです。優君は料理のスキルも持っていた?」
「いえいえ、ありませんよ。趣味みたいなものです」
作成方法は秘密です。玉藻になって迷い家で簡単クッキングを行いましたと言ったら、関中佐はどんな顔をするだろうな。
「優は多才でしてね。あの広目天立像も優の手彫りなんですよ」
「・・・優君、料理人としても仏師としても一流になれるのでは?」
テレビの脇に安置されている新作の広目天立像を見て何か達観したような表情の関中佐。俺は料理人にも仏師にもなりませんよ。
「では、日程は決定次第お知らせ致します。あとお土産をこんなにありがとうございます」
「材料費なんて安い物ですからお気になさらないで下さい。お口に合えば幸いです」
関中佐は大きめのタッパー三つに詰めた干芋を持ち嬉しそうに帰って行った。材料費は安いどころかタダなんだよなぁ。
「さて、ゴールデンウィークの予定は決まったし勉強するかな」
「優、そんなに根を詰める必要は無いんだぞ」
「連休明けには中間テストがあるからね。進路は決まってるとはいえ、できれば成績を落としたくないから」
勉強に力を入れるのは、他にやりたい事があまり無いというのもある。ラノベや漫画、アニメはこの世界にもあるけれど、イマイチ面白いと思えない。
何せダンジョンやスキルが現実にある世界なのだ。創作が現実とあまり変わらないような感覚なので楽しめない。
それに、舞は中学生になって初めてのテストとなる。小学校と違うテストに戸惑うだろうから教師役をやりたい。
その為の時間を作る為、早めにテストの準備をしておきたいのだ。
えっ、過保護だって?可愛い妹の為ならこれくらい普通だよね。




