第百七十三話
写真撮影などをして時間を食ったが、まだ日が落ちるまでは少し時間があった。ドレスアーマーを着たままで庭に出て動きを確かめてみる。
着ると自動的にスカートが広がる仕様になっていて、足運びには全く影響が出なかった。これなら双剣と合わせても問題無さそうだ。
斧槍を置いて双剣に換装し鞘を付ける為のベルトごと外す。斧槍を手に持ちドレスアーマーに換装したら双剣を付ける。
双剣を抜き放ち実戦を想定した動きをしてみるがドレスが邪魔になる事は無かった。剣を振り下ろした際に広がったスカートに掠る事はあったが表面を滑るだけで切れずに済んだ。
「魔鉄の剣が効かないって、綺麗なだけじゃなく凄く強いのね」
「これは嬉しい誤算だな。双剣での防御が高まれば更に踏み込んで攻撃出来る」
当然のように訓練を見ていた舞に女性体を解除して答える。暗くなってきたので今日の鍛錬は終わりだ。
「これがあと二つあれば良いのにね」
「それは理想だけど、宝箱なんて見つかる物じゃないしあっても中身がまたドレスアーマーなんてまずあり得ないだろうな」
着せ替え人形の特性を使えば増やせる可能性は高いと思う。実際に剣を増やしたという実績もある。
でも、複数欲しいからといって態と壊して増やすのは何か違うと思う。修復されるとはいえ欲の為に態と壊すなんてやってはいけない事だと思うのだ。
双剣は増やしたが、あれは元から二つに折れていたので態と壊した訳では無い。
次の土曜日、ドレスの効果を確認する為にいつものダンジョンに潜った。ドレスの防御力は申し分なく、突撃牛の突進や火鷹の魔法を受けてもダメージを受けなかった。
来たついでに牛肉を乱獲してストックを増やしておく。これで暫く牛肉に困る事は無いだろう。
防御力も向上し、更に深い階層に潜りたいという欲求が強くなる。しかし二泊以上は必須となるので長期休暇になるのを待たねばならない。
幸いゴールデンウィークが近いのでそこで潜ろうと思っていた。しかし予想外の出来事でその目論見は潰えてしまう。
翌日、菓子折りを持った関中佐がうちを訪ねてきた。父さんと母さんには連絡して訪問の予約をしていたらしい。
リビングに通され白い恋人を母さんに渡した関中佐は徐ろに訪問の理由を話しだした。
「本日お伺いしましたのは、優君にお願いがありまして。優君、ゴールデンウィークに陸軍と共にダンジョンに潜っていただけませんか?」
何と、軍人とパーティーを組んでのダンジョン探索を頼まれてしまった。いずれは行う事ではあったが、いきなりだったので面食らってしまった。
「陸軍は優秀なスキル保持者に軍属として協力してもらいたいのです。しかしスキル登録時に勧誘しても正式な軍属には出来ません」
「義務教育中の生徒を軍の指揮系統に入れるなと文部省が反対しているらしいですな」
言葉を継いだ父さんに関中佐は首肯して同意する。これは度々テレビで報じられているので秘密という訳では無い。
「そして在学中にクランに勧誘され、探索者になるケースが多いのです。軍が勧誘していたと言っても口約束ですから・・・」
それが軍の攻略部隊不足の原因となり、軍で戦闘系スキル持ちが増長する原因にもなっていると。
口約束とはいえ約束を反故にするのは感心出来ない行為だけど、待遇等を書面で正式に提示出来ないのだから心変わりしても責められないか。




