第百七十一話
その週の週末、俺はいつものダンジョンに潜った。鶏肉の在庫が少なくなったので補充したかった。あの味を知ってしまうと市販の鶏肉を買おうと思わなくなってしまう。
繰り返し潜らせるというダンジョン作成者の思惑にすっかり嵌ってしまっていた。分かっちゃいるけど止められない。
学園を休む気はないので、土曜日の朝から潜り一泊。日曜日の昼までには帰宅するという予定でいる。
本来このスケジュールでは数を狩る事は出来ないのだが、そこは玉藻さんという反則技を使わせて貰います。
世間では探し回っている人が多い玉藻さん。迂闊に姿を現すと面倒な事になりそうだけど、ここは過疎化しているので間引きに来る軍に気をつければ他の探索者に会う事はほぼ無い。
「彗星鶏の速度に慣れると夫婦鶏は遅く感じるのぅ」
簡単に狩れるとは言わないが、以前より楽に狩れるようになった。適時休憩を挟みながら魔石と鶏肉を集める。
翌日、大きな岩陰に逃げた夫婦鶏を追撃し狐火で撃墜すると魔石が落ちた岩の上部に不自然な窪みがある事に気付いた。
魔石を回収し窪みの奥を見ると宝箱が鎮座していた。探索者を始めて約一年、初めての宝箱だ。
「下からは見えない位置だから誰も発見出来んかったのじゃろうな」
一旦深呼吸して落ち着き、蓋に手をかける。知られている限りでは宝箱に鍵がかかっていたり罠が仕掛けられていたという事はない。
この宝箱も例外ではなく、蓋は音もなく開いていく。その中に仕舞われていたお宝を取り出し両手で広げてみる。
「防具も欲しいとは思っておったが、これは喜んで良いのか微妙じゃのぅ」
宝箱に入っていたのは、ドレスアーマーと呼ばれる防具だった。純白の生地は光沢を帯びていて普通の布ではないと思われる。
胸部には金属製のガードが付いていてただのドレスではない事を主張している。鑑定を依頼しないと断言出来ないが、防御力はかなり高そうだ。
「防具が手に入ったのは嬉しいが、女性ものという点には物申したい所じゃのぅ」
取り敢えず持ち帰らないという選択肢は無い為、一度迷い家に入る。ドレスを箪笥に仕舞ってついでに休憩しておいた。
戻る渦に帰りながら遭遇した夫婦鶏を狩っていく。ある程度渦に近付いた所で迷い家に入り持ち帰る肉と魔石、ドレスをリュックに入れた。
最短距離を通って地上に戻りカウンターに行く。もう顔なじみになった受付嬢のお姉さんが笑顔で迎えてくれた。
「すいません、魔石の買い取りとアイテム鑑定をお願いします」
「お疲れ様です。鑑定という事は宝箱を発見されましたか!」
「はい、中身はこれでした」
買い取って貰う魔石とドレスをカウンターに乗せて探索者カードを渡す。
「ドレスアーマーですか・・・鑑定は有料ですがよろしいですね?」
「お願いします。鑑定料は魔石の売却金から取って下さい。残りはカードにお願いします」
十分程かかり鑑定から戻ってきた受付嬢さんからドレスとカードを受け取る。それと鑑定結果を書いた紙を入れた封筒も受け取った。
それらをリュックに入れてカウンターから離れる。これから帰ると母さんにメールして家路についた。
・・・あれ、以前素戔嗚尊様からレアドロップについては聞いたけど、ダンジョン作成者が宝箱を作ったと聞かなかったな。機会があったら聞いてみよう。




